「信用」と「信頼」の違いは“覚悟”にある。実績ゼロの部下を任せるためのマネジメント論

[著者情報]

この記事を書いた人:松本 啓(まつもと けい)
組織開発コンサルタント / 元外資系企業マネージャー
延べ200社以上の管理職研修に登壇。「プレイングマネージャーからの脱却」をテーマに、精神論ではないロジカルなマネジメント論と、最後にリーダーの覚悟を問う熱い指導で支持を集める。


「もっと私を信頼して任せてください」

部下との面談でそう言われて、言葉に詰まってしまった経験はありませんか?

あなたの頭の中には、こんな本音が渦巻いていたはずです。

「信頼しろと言われても、君はまだミスばかりじゃないか。実績もないのに、どうやって信じればいいんだ?」

その葛藤、痛いほどよく分かります。

新任マネージャーの多くが、この「部下を信じられない自分」への罪悪感と、「失敗させられない」という責任感の板挟みになっています。

しかし、組織開発コンサルタントとして断言します。

あなたが部下を信じられないのは、正常です。 なぜなら、その部下にはまだ「信用」に足る実績がないのですから。

多くのリーダーが誤解していますが、マネジメントにおいて「信用」と「信頼」は全く別の機能を持つツールです。

この記事では、精神論ではなく、実務としてこの2つをどう使い分け、実績ゼロの部下をどう育てていくか、そのロジックと「覚悟」についてお話しします。


スポンサーリンク

なぜあなたは部下を信じられないのか? 「信用」と「信頼」の決定的な違い

まず、あなたの罪悪感を払拭するために、言葉の定義を明確にしましょう。

あなたが部下に対して感じている「信じられない」という感情は、実は「信用できない」と言い換えるべきものです。

ビジネスにおける「信用(Credit)」と「信頼(Trust)」は、対比的な関係にあります。

  • 信用(Credit):
    これは「過去の実績」に対する評価です。「彼は過去にこれだけの成果を出したから、次も大丈夫だろう」という、条件付きの判断です。銀行がお金を貸す時、担保や過去の返済能力を見るのと同じです。つまり、ミスをしない確証がある相手にしか使えません。
  • 信頼(Trust):
    対してこちらは、「未来の可能性」に対する期待です。「実績はまだないが、彼ならやってくれるはずだ」という、無条件の投資です。担保なしでベンチャー企業に投資するエンジェル投資家のようなものです。

あなたが部下を「信用」できないのは当然です。彼らにはまだ過去の実績(担保)がないのですから。
しかし、育成に必要なのは信用ではありません。実績のない相手に、あなたのリスクで機会を渡す「信頼」という行為なのです。

「信用」と「信頼」の対比表


実績のない部下にどう仕事を任せる? 「タスクアサイン・マトリクス」

「理屈は分かったが、ミスをされたら困る仕事もある」。その通りです。
だからこそ、精神論ではなく「タスクアサイン・マトリクス」を使って、業務を仕分ける必要があります。

すべての仕事を「信頼」だけで任せてはいけません。それは無謀です。
業務を「失敗した時の影響度(リスク)」と「部下のスキル(実績)」の2軸で分類し、任せ方を変えるのです。

  1. 信用領域(高リスク × 高スキル必要):
    顧客への最終プレゼンや、システムの本番稼働など。ここは「信用」できるベテランに任せるか、あなたが自分でやるべき領域です。実績のない部下にここを任せるのは、信頼ではなく「無責任」です。
  2. 信頼領域(低〜中リスク × 低スキルでも可):
    社内会議のファシリテーションや、資料のドラフト作成など。失敗してもあなたがカバーでき、かつ部下の成長につながる業務。こここそが、実績のない若手に「信頼」して任せるべき領域です。

部下に「信頼してください」と言われたら、このマトリクスを頭に浮かべてください。そして、「この重要案件はまだ『信用』できないから任せられない。でも、このプロジェクトのリーダーは君を『信頼』して任せたい」と、使い分けて伝えればいいのです。

タスクアサイン・マトリクス図


「裏切られるのが怖い」あなたへ。アドラー心理学に学ぶリスク管理術

業務の仕分けができても、まだ心の中に「それでも裏切られたら(期待外れだったら)どうしよう」という恐怖が残っているかもしれません。

ここで役に立つのが、アドラー心理学の「課題の分離」という考え方です。

あなたは、「自分が信頼して任せたのだから、部下は期待に応えるべきだ」と考えていませんか?

実は、その思考こそが恐怖の正体です。

  • あなたの課題: 部下を信頼して、任せるかどうかを決めること。
  • 部下の課題: その期待に応えるか、あるいは裏切る(失敗する)か。

アドラーは、「他者の課題には介入できない」と説きます。

部下が期待に応えるかどうかは、部下の課題であり、あなたがコントロールできるものではありません。

コントロールできないものを「管理」しようとするから、不安になり、細かく口出し(マイクロマネジメント)をしてしまうのです。

信頼と管理は対立します。

「裏切られるかもしれない。でも、それは彼自身の課題だ。私は私の課題として、彼を信じて任せることを選ぼう」。

そうやって課題を切り離した時、初めてあなたは「結果への執着」という恐怖から解放され、本当の意味で部下を信頼できるようになります。


「丸投げ」とは違う。信頼して任せるための3つのステップ

最後に、具体的なアクションについてお話しします。

「信頼して任せる」ことと、「丸投げ」は違います。

丸投げは責任放棄ですが、信頼は「責任の所在を明確にしたリスクテイク」です。

以下の3ステップで任せてください。

  1. セーフティネットの提示(責任は私が取る):
    「この仕事は君に任せたい。もし失敗しても、最終的な責任は僕が取るし、カバーもする。だから思い切ってやってみてほしい」
    これが言えるかどうかが、リーダーの分かれ目です。
  2. プロセスの共有(監視ではなく支援):
    「進め方で迷ったら相談してほしい。思考プロセスを共有してくれたら、アドバイスできるから」
    結果だけを求めるのではなく、プロセスに寄り添う姿勢を見せます。これは管理ではなく支援です。
  3. フィードバック(成功は部下へ、失敗は仕組みへ):
    成功したら「君が頑張ったからだ」と手柄を渡します。失敗したら「任せた僕の判断ミスか、仕組みの問題だ」と引き取ります。これが信頼の証となります。

まとめ:「信用」と「信頼」の違いは“覚悟”にある

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

結局のところ、マネジメントとはロジックだけでは完結しません。

「信用」は過去の採点表を見れば誰でも判断できます。

しかし、「信頼」は論理を超えた先にあります。

実績のない部下に仕事を任せる。それは、あなたが「損をする覚悟」を決めるということです。

「あいつに任せて失敗したら、俺の評価が下がるかもしれない。それでも、あいつの未来に賭けてみたい」

そう思えた瞬間、あなたは単なる「管理者」から、人を育てる「リーダー」へと進化します。

明日、部下に一つのタスクを「信頼」して任せてみてください。

その時かける言葉は、「期待しているよ」ではありません。

「何かあったら責任は私が取るから、好きにやってみろ」です。

その一言が、部下の目の色を変えるはずです。


[参考文献リスト]

スポンサーリンク