この記事の著者:中本 広志(なかもと ひろし)
元鮮魚店店主 / 魚料理研究家
鮮魚店を30年営み、店頭で主婦の皆さんに「簡単な魚のさばき方」を教え続けてきました。「魚屋のオヤジ」として、プロの技を家庭向けに分かりやすく伝授します。
スーパーの鮮魚コーナーで、丸々と太った立派なニシンが「1尾150円」なんて激安価格で売られているのを見たことありませんか?
「うわ、安い!美味しそう!」と手を伸ばしかけて、「でもニシンって小骨が多そうだし…」「寄生虫(アニサキス)が怖いし…」と、結局棚に戻してしまった経験、あるのではないでしょうか。
もったいない!本当にもったいないです!
実はニシンは、ちょっとしたコツを知っているだけで、あの厄介な小骨が全く気にならなくなるんです。
元魚屋の私が、家庭でできる安全で美味しい「魔法の下処理」を教えます。
これを読めば、もうニシンの前で迷うことはなくなりますよ。
【結論】ニシンの小骨は「抜く」な!「切る」か「煮る」が正解
まず最初に、一番大切なことを言います。
ニシンの小骨を「骨抜き」で抜こうとしてはいけません。
アジやサバのように骨抜きで抜こうとすると、ニシンの身は柔らかいのでボロボロになってしまいます。
しかも、ニシンの小骨は身の中に複雑に入り組んでいるため、物理的に抜ききることができません。
プロでも抜きません。
ではどうするか? 正解は2つだけです。
- 骨切りをする: ハモのように細かく包丁を入れて、骨を断ち切る。
- 圧力調理をする: 圧力鍋などで骨まで柔らかく煮る。
今回は、香ばしい塩焼きやフライを楽しむための「骨切り」のテクニックを中心に伝授します。
魚屋が教える「骨切り」テクニック。包丁を入れるだけで劇的に変わる
「骨切り」と聞くと、「職人技でしょ?難しそう…」と思うかもしれません。
でも大丈夫。家庭で食べる分には、そこまで精密である必要はありません。
要は「口に当たらない長さに骨を切ってしまえばいい」のです。
用意するもの
- よく切れる包丁(これだけは必須!)
- 三枚おろしにしたニシンの身
骨切りの手順
- 皮を下にして置く: 三枚おろしにした身の、皮側をまな板につけて置きます。
- 斜めに包丁を入れる: 身の方から、包丁を少し斜めに入れます。
- 「皮一枚」残す: ここがポイント!皮まで切ってしまうとバラバラになります。「皮一枚残す」感覚で、ザクッ、ザクッと切り込みを入れます。
- 2〜3mm間隔で: 骨が気にならない長さにするため、2〜3mm間隔で細かく切り込みを入れていきます。
下記の動画で、やり方を確認してください!
こうして細かく切断された小骨は、焼くことで熱が入って縮み、さらに身と一体化して、食べた時に「チクッ」とすることがなくなります。
これが魔法の正体です。
【重要】アニサキスは酢では死なない!家庭で安全に食べる鉄則
次に、皆さんが心配している「アニサキス(寄生虫)」についてです。
ここだけは、元魚屋として厳しく言わせてください。
「酢で締めれば大丈夫」「よく噛めば大丈夫」というのは迷信です。絶対に信じないでください。
アニサキスは酢の中でも数日間生きています。家庭で安全に食べるための鉄則は以下の3つです。
1. 買ったらすぐに内臓を出す
アニサキスは内臓にいます。魚が死んで時間が経つと、内臓から筋肉(身)へと移動します。
スーパーで買ってきたら、冷蔵庫に入れる前に、まず内臓を出して洗ってください。 これだけでリスクは激減します。
2. 加熱が最強(60℃以上で1分)
塩焼き、煮付け、フライなど、中心までしっかり火を通せば、アニサキスは死滅します。
これが一番確実で安心な方法です。
3. 生食なら「48時間冷凍」
どうしても刺身で食べたい場合は、「家庭用冷凍庫で48時間以上」凍らせてください。
厚生労働省の基準は「-20℃で24時間」ですが、家庭用冷凍庫は開け閉めで温度が上がりやすいため、念のため48時間(丸2日)凍らせることを強くおすすめします。
解凍して食べる「ルイベ」は、北海道の知恵が生んだ安全な食べ方なんですよ。
捨てないで!お腹の「白子・数の子」は最高の珍味
内臓を出すとき、ちょっと待ってください!
お腹がパンパンに膨らんでいたら、それは「当たり」の証拠です。
- お腹が白っぽい → オス(白子入り)
- お腹が黄色っぽい → メス(数の子入り)
これ、捨てちゃダメですよ!
白子はサッと湯通ししてポン酢で食べれば、とろけるクリーミーさ。
生の数の子は、醤油と酒で煮付ければ、市販の塩数の子とは違う、プチプチとした優しい食感が楽しめます。
150円の魚から、こんな高級珍味が取れるんです。
「今日はどっちが入ってるかな?」とワクワクしながらさばくのも、ニシンの醍醐味です。
今晩のおかずはコレ!生ニシンのおすすめレシピ3選
下処理さえできれば、あとは焼くだけ煮るだけ。
生ニシンならではの、脂の乗った美味しさを楽しめるレシピを3つ紹介します。
1. 【骨切り】ニシンの塩焼き
骨切りした身に塩を振って、グリルで焼くだけ。
切り込みから余分な脂が落ち、皮はパリッと、中はふっくら。骨切りのおかげで小骨も気にならず、香ばしさがたまりません。
大根おろしを添えれば最高のご馳走です。
2. 【圧力鍋】ニシンの甘露煮
骨切りが面倒なら、圧力鍋にお任せ。
醤油、砂糖、酒、生姜で煮込めば、骨までホロホロの甘露煮に。
ご飯のお供にはもちろん、冷めても美味しいのでお弁当にも最適。まとめて作って常備菜にするのも賢い主婦の技です。
3. 【揚げ物】ニシンのフライ
お子様にはこれが一番!
三枚おろし(骨切りなしでもOK)にパン粉をつけて、高温でカラッと揚げます。
高温で揚げることで小骨までカリカリになり、スナック感覚で食べられます。
タルタルソースをかければ、魚嫌いの子でもペロリといけちゃいますよ。
まとめ
いかがでしたか?
- 小骨は「骨切り」で解決
- アニサキスは「加熱」か「冷凍」で解決
- 白子と数の子は「お宝」
この3つを知っていれば、ニシンはもう「面倒な魚」ではありません。
「安くて、美味しくて、栄養満点なお宝食材」です。
春のニシンは「春告魚(はるつげうお)」とも呼ばれ、脂が乗って本当に美味しい時期です。
さあ、スーパーに戻って、あの立派なニシンをカゴに入れましょう!
今晩の食卓で、「これ、150円なの!?」と家族を驚かせてやってくださいね。