この記事の著者:マイケル・タナカ (Michael Tanaka)
日米バイリンガル・ビジネス英語コーチ
米国育ちのバイリンガルとして、大手外資系企業で10年以上、日本人社員向けの英語研修を担当。著書に『その英語、ネイティブには「喧嘩腰」に聞こえてます』がある。「文法の先生」ではなく「現場の先輩」として、実務でのリスク回避を最優先にアドバイスする。
海外のクライアントから届いたメールに「We need more than 5 engineers for this project.」と書かれていたら、あなたは5人のエンジニアを集めますか? それとも6人でしょうか?
もしここで「5人(以上)」と判断してしまったなら、プロジェクト開始初日に「1人足りない!」というトラブルになる可能性があります。
多くの日本人が学校で習った「more than = 〜以上」という訳語。実はこれ、ビジネスの現場では命取りになりかねない誤解を含んでいます。
英語の more than は、日本語の「以上」とは全く違う概念だからです。
この記事では、ネイティブの脳内にある「数字の境界線」と、辞書には載りきらない「感情的なmore than」の使い方を解説します。
「数字のミス」を防ぎ、相手の「感情」まで読み取れるようになれば、英語メールへの恐怖心はきっと面白さに変わるはずです。
【最重要】「more than 10」に10は入らない。
まず結論から申し上げます。英語の more than 10 に、10は含まれません。
ここが日本人にとって最大の落とし穴です。
私たちは学校で「more than = 〜以上」と暗記させられましたが、日本語の「以上」は数学的に「≧(その数を含む)」を意味します。
しかし、英語の more than は数学的に「>(その数より大きい)」を意味する言葉なのです。
日本語の「以上」と英語の「more than」の決定的なズレ
この日本語の「以上」と英語の more than の間にある決定的なズレこそが、多くの誤解を生む原因です。
- 日本語の「10以上」: 10, 11, 12… (10を含む)
- 英語の「more than 10」: 11, 12, 13… (10を含まない)
もしあなたが「10個以上(10個を含む)」と言いたい場合に more than 10 を使ってしまうと、ネイティブは「11個からだな」と解釈します。
この「1個のズレ」が、納期や人数の確認において致命的なミスにつながるのです。
「10以上」と言いたい時の正しい英語表現
では、「10を含む」と言いたい場合はどうすればよいのでしょうか? 正解は以下の通りです。
- 10 or more (10、またはそれ以上)
- at least 10 (少なくとも10)
これなら誤解の余地はありません。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: ビジネスメールで数字を扱う時は、
more thanを避けて10 or moreやat least 10を使うのが最も安全です。なぜなら、相手(特に非ネイティブ)も
more thanの定義を誤解している可能性があるからです。契約書や仕様書など、数字の厳密さが求められる場面では、誰が読んでも解釈が割れない表現を選ぶのがプロの鉄則です。
「〜より多い」だけじゃない。「more than happy」の正体
数字の話がクリアになったところで、次は「感情」の話をしましょう。
ビジネスメールでよく見る I am more than happy to help you. という表現。
これを「私はあなたを助けることが幸せより多いです」と直訳しても意味が分かりませんよね。
「happyという言葉の枠を超えている」
ここでの more than は、単なる比較ではなく「強調」として使われています。
しかし、ただの very とはニュアンスが違います。
more than happy の原義は、「happy という言葉の枠(基準)を超えている」ということです。
つまり、「単に嬉しい(happy)という言葉では表現しきれないほど嬉しい」「期待していた以上に喜んで」という、溢れ出るようなポジティブな感情が含まれているのです。
ネイティブが使う「枠超え」の表現
この「枠超え」の感覚がつかめると、他の表現もスッと理解できるようになります。
- He is more than a colleague.
- 直訳:彼は同僚より多い。
- ネイティブの感覚: 彼は単なる「同僚」という枠に収まる存在ではない。(=戦友だ、恩人だ、家族のような存在だ)
- It was more than I expected.
- 直訳:それは私が期待したより多かった。
- ネイティブの感覚: 私の「期待」という枠を遥かに超えていた。(=想像以上の素晴らしい結果だった)
このように、more than は数字の大小だけでなく、「言葉の定義や期待値を超える」という感情的なニュアンスを伝えるための強力なツールなのです。
「no more than」と「not more than」の決定的な違い
最後に、多くの学習者を悩ませる no more than と not more than の違いについて解説します。
学校では「no more than = only(たった〜しか)」、「not more than = at most(せいぜい〜)」と公式のように習ったかもしれません。
しかし、現場で大切なのは訳語の暗記ではなく、「そこに感情があるかどうか」を見抜くことです。
no は感情的、not は事務的
この2つの表現の違いは、no と not が持つ本質的なニュアンスの差から来ています。
- no more than 100 yen (感情:不満・驚き)
noは強い否定を表す言葉です。「100円より多いなんてことは断じてない!」という強い気持ちが込められています。- つまり、「(期待していたより少なくて)たった100円しかない!」という感情的な不満や驚きを表します。
- not more than 100 yen (事実:客観的)
notは単なる事実の否定です。「100円より多くはない」と淡々と述べているだけです。- つまり、「せいぜい100円くらい(それ以上にはならない)」という客観的な上限を表します。
📊 比較表
no more than と not more than のニュアンス比較
| 表現 | 直訳的な意味 | 含まれる感情 | ビジネスでの使用例 |
|---|---|---|---|
| no more than | たった〜しか | 強い感情(不満・驚き) 「少なすぎる!」 | “The budget is no more than $1,000.” (予算はたった1,000ドルしかない=これじゃ足りない) |
| not more than | せいぜい〜 | 無感情(事実・上限) 「これ以上ではない」 | “The cost will be not more than $1,000.” (コストはせいぜい1,000ドル以内でしょう=見積もりの上限) |
メールの文脈で相手が no more than を使っていたら、「あ、予算が少なくて困っているんだな」とか「もっと欲しいんだな」という感情を読み取ることができます。
逆に not more than なら、単なる条件提示だと判断できます。
Q&A:overとの違いは?BよりAの構文は?
ここでは、鈴木さん(ペルソナ)のような方が疑問に思いがちなポイントをQ&A形式で解消します。
Q1. over と more than はどう違うんですか?
A. 現代のビジネス英語では「同じ」と考えてOKです。
かつては「over は年齢や空間、more than は数量」という使い分けのルールが存在しました。しかし、2014年にAP通信スタイルブック(ジャーナリズムの基準書)が改訂され、数量についても over と more than は交換可能とされました。
ですので、over 100 people と言っても more than 100 people と言っても、どちらも正解です。安心して使い分けてください。
Q2. more A than B (BというよりむしろA)の使い方は?
A. これは「比較」ではなく「言葉選びの訂正」です。
例えば、He is more clever than wise. という文。
通常、clever の比較級は cleverer ですが、この構文では more clever となっています。
これは、「彼」の賢さを誰かと比較しているのではなく、「彼を表現する言葉として、wise(賢明)というよりは clever(利口・ずる賢い)と言う方が適切だ」と、言葉選びを訂正しているからです。
この構文では、本来 -er をつける単語であっても more を使うのがルールです。
数字は厳密に、感情は豊かに。
英語の more than は、時に冷徹なほど厳密な「数字の境界線(含まない)」を示し、時に溢れんばかりの「感情(枠超え)」を表現する、とても奥深い言葉です。
「more than 5」と言われたら、これからは心の中で「白丸(含まない)!」と唱えてみてください。
そして more than happy と言われたら、相手の笑顔を想像してみてください。
この2つの感覚さえつかめれば、あなたの英語メールはもっとクリアで、もっと人間味のあるものになるはずです。
自信を持って、世界中の「同僚以上の存在(more than colleagues)」とコミュニケーションを楽しんでください!