SNSでたまに見かける、「エイの干物が完全にエイリアン」「怖すぎてトラウマ…」という画像。
思わず二度見して、「これって本物?」「コラじゃないの?」と気になったことはありませんか。
あのインパクトの強い見た目を見ると、「もうエイヒレが食べられないかも…」と思ってしまう方もいるかもしれません。
でも、安心してください。
あの画像の正体は、たしかに本物のエイの仲間ではあるものの、もちろん宇宙人ではありません。
しかも驚くことに、あのエイリアンっぽい干物と、居酒屋の定番おつまみとして親しまれている「エイヒレ」は、同じエイの仲間からできています。
違うのは、見せ方や加工のされ方、そして食べる部位です。
この記事では、エイの干物がなぜあんなに不思議な見た目になるのか、昔ヨーロッパで話題になった「ジェニー・ハニヴァー」という怪物風の加工標本の歴史、そしておなじみのエイヒレとの関係まで、初心者さんにもわかりやすくやさしく解説します。
【この記事を書いた人】
松田 庄司(サイエンス&グルメライター)
海の生きものや食文化にまつわる「ちょっと不思議で面白い話」を、専門用語をできるだけ使わず、やさしく紹介しています。
なぜエイの干物は「エイリアン」に見えるの?
まず、いちばん気になるのはここですよね。どうしてエイの干物は、あんなにも“顔っぽく”見えるのでしょうか。
その理由は、エイの体のつくりにあります。
エイの仲間は、目や噴水孔(ふんすいこう)が体の上側や頭の近くにあり、口やえらの開口部は体の下側にあります。
さらに、鼻の穴にあたる部分も口の近くにあるため、下から見ると「目・鼻・口」が並んでいるように見えやすいのです。
水族館でエイを下から見ると、なんだか笑っている顔のように見えることがありますよね。
あれも同じ理由です。エイはもともと海底で暮らすことが多いので、口やえらが下側にあるつくりになっています。
そして干物になると、水分が抜けて皮膚が縮み、口まわりや鼻の穴、えらの開口部などがよりくっきり見えます。
そこに、平たい体と突き出た頭の形が重なって、まるでエイリアンや怪物のような顔に見えてしまうのです。

昔のヨーロッパでは「怪物の標本」として売られていた
実は、エイの干物が「怪物みたい」と話題になるのは、今に始まったことではありません。
16世紀ごろのヨーロッパでは、エイやガンギエイ、ギターフィッシュの仲間を乾燥させて、翼のある怪物や人魚のような姿に見えるよう加工した標本がつくられていました。
これが、「ジェニー・ハニヴァー(Jenny Haniver)」と呼ばれるものです。
いまでいうフェイク標本や珍品コレクションのような存在で、当時は珍しいもの好きの人たちの間で関心を集めました。
海の向こうの不思議な生きものとして紹介されたり、怪物やドラゴンのように見せて売られたりしたこともあったそうです。
今の私たちがSNSで「なにこれ怖い!」と驚くのと、どこか似ていますよね。
昔の人もまた、エイの不思議な形に想像力をかき立てられていたのかもしれません。
ジェニー・ハニヴァーってどんなもの?
ジェニー・ハニヴァーは、自然そのままの姿というより、人の手で怪物っぽく見えるように整えられた加工標本です。
ひれや尾の向きを調整したり、乾燥のさせ方を工夫したりして、人魚や悪魔、翼のある怪物のような見た目に仕上げていました。
もともとの生きものの形に少し手を加えるだけで、想像以上に“それっぽく”見えてしまうのが面白いところです。
つまり、SNSで見かける「エイの干物エイリアン」は、単なる偶然の見た目だけではなく、昔から人を驚かせてきた顔に見える構造を持っている、ということなんですね。
居酒屋のエイヒレとは、どういう関係があるの?
ここで気になるのが、「じゃあエイヒレって、あのエイリアンのどの部分なの?」ということではないでしょうか。
答えはとてもシンプルで、エイヒレはエイのヒレの部分です。
名前の通りですね。日本の魚食普及の解説でも、「エイヒレはエイのヒレ」とはっきり説明されています。
つまり、丸ごとの干物がエイリアンっぽい見た目になるのに対して、私たちが居酒屋で食べるエイヒレは、その中でも主にヒレの部分だけを加工したものです。
見た目のインパクトが強い胴体部分とは違って、食用ではヒレの部分が親しまれています。
また、エイは軟骨魚類なので、ヒレや軟骨まわりに独特のコリコリ感があります。
この食感が、エイヒレの魅力のひとつです。地域によっては、エイの干物を使った郷土料理もあり、山形では「からかい」、秋田や北海道では「干しかすべ」として親しまれてきました。

エイヒレは、見た目を知ると食べにくくなる?
これは人によって感じ方が分かれるところですが、私はむしろ、正体がわかると少し安心できると思います。
たしかに、丸ごとの干物だけを見るとインパクトがあります。
でも、正体を知ると「宇宙人みたいに見えるのは、体のつくりと乾燥のせいなんだ」とわかりますし、食用のエイヒレはその中でもヒレの部分です。
知らないものは怖く感じやすいものですが、仕組みや背景がわかると、怖さが少し和らぐことがあります。
あの画像を見てびっくりした方も、「へえ、そういうことだったんだ」と思っていただけたらうれしいです。
エイの干物に関するよくある質問
Q. SNSで見る“エイリアンみたいな干物”は本物ですか?
A. 本物のエイやガンギエイ、ギターフィッシュの仲間を乾燥させたものが元になっていることがあります。中には怪物っぽく見えるように加工された標本もあります。
Q. ジェニー・ハニヴァーは今でも見られますか?
A. はい。博物館の解説記事や標本写真などで紹介されることがあります。珍品・好事家向けのアイテムとして語られることもあります。
Q. エイヒレは本当にエイのヒレなんですか?
A. はい。名前の通り、エイのヒレを加工した食品です。商品によって使われる種類や加工法は異なりますが、「エイのヒレ」であることは変わりません。
Q. エイって日本でも食べられているんですか?
A. はい。エイヒレだけでなく、地域によっては「干しかすべ」や「からかい」など、干物や煮付けとして昔から親しまれてきました。
まとめ
SNSで話題になる“エイリアンみたいなエイの干物”の正体は、エイの体のつくりと、乾燥によって顔のような形が強調されることで生まれる不思議な見た目でした。
- エイの下側には、口やえらの開口部、鼻の穴が集まっていて、顔のように見えやすい
- 乾燥するとその特徴がさらに目立ち、エイリアンのような姿に見える
- 16世紀ごろのヨーロッパでは、「ジェニー・ハニヴァー」という怪物風の加工標本もつくられていた
- 居酒屋でおなじみのエイヒレは、同じエイのヒレの部分を加工した食べ物
ちょっと怖い見た目の奥には、海の生きものの面白い体のつくりと、昔の人の想像力がつまっています。
次に居酒屋でエイヒレを見かけたら、ぜひ「あのエイリアン画像の正体って知ってる?」と話してみてください。
ちょっとした雑学として、会話が盛り上がるかもしれませんよ。
【参考文献・参考サイト】
- Natural History Museum「Sea monsters and their inspiration: Serpents, mermaids, the kraken and more」
- Florida Museum of Natural History「Bluespotted Ribbontail Ray」「Cownose Ray」
- 魚食普及推進センター「フカヒレとは?サメもエイも軟骨魚類!」
- 農林水産省 うちの郷土料理「からかい煮」「かすべ煮」「カスベの煮付け」