
この記事を書いた人:歴史経営参謀・沢田
歴史ビジネスコンサルタント / 戦国史研究家
大手企業の管理職研修で「戦国武将に学ぶ危機管理」をテーマに講演多数。歴史のロマンを共有しつつ、明日から使える「武器」として言葉を授けるメンター。
大河ドラマで、燃え盛る本能寺を背に織田信長が放った一言、「是非もなし」。
その潔さ、覚悟に満ちた表情に心を打たれ、「かっこいい言葉だ」と痺れた方も多いのではないでしょうか。
しかし同時に、「会社で使ったら変かな?」「そもそも『仕方がない』という諦めの言葉なのかな?」と疑問を持ち、検索窓に打ち込んだあなたへ。
実はこの言葉、多くの人が誤解しているような「諦め」や「敗北宣言」ではありません。
これは、絶体絶命の危機においてリーダーが発すべき「究極の戦闘宣言」なのです。
この記事では、歴史経営参謀である私が、『信長公記』に基づく正確な意味と、現代のビジネスシーンでチームを鼓舞するための「粋な」使い方を解説します。
読み終わる頃には、あなたの心に信長のような潔い決断力が宿っているはずです。
原文は「是非に及ばず」。信長が放った言葉の真の意味
まず、言葉の正確な定義から紐解いていきましょう。
ドラマや小説では「是非もなし」と言われることが多いですが、太田牛一が記した一次史料『信長公記』には、「是非に及ばず」と記されています。
現代語ではどちらもほぼ同じ意味で使われますが、この言葉の構造を分解すると、信長の思考プロセスがより鮮明に見えてきます。
- 是非(ぜひ): 「是(正しいこと)」と「非(間違っていること)」。つまり、物事の善悪や良し悪し。
- に及ばず: 〜までする必要がない。〜する段階ではない。
つまり、「是非に及ばず」とは、「善悪を論じている場合ではない」「議論の余地はない」という意味になります。

ここで重要なのは、「是非もなし」と「是非に及ばず」は、原文と派生の関係にありながら、その本質は「議論の打ち切り」にあるという点です。
単なる「仕方がない」という感情の吐露ではなく、論理的な判断の結果としての言葉なのです。
なぜ信長はそう言ったのか?「諦め」ではなく「即断」の美学
では、なぜ信長は死を目前にして、この言葉を放ったのでしょうか?
その真意を知るには、本能寺の変の緊迫した状況を理解する必要があります。
早朝、本能寺を取り囲む軍勢の旗印が「水色桔梗(明智光秀の家紋)」であると報告を受けた信長。
信頼していた部下の謀反。普通なら「なぜだ?」「何が不満だったんだ?」「誰か説得してこい!」と取り乱し、原因究明(Why)に時間を費やす場面です。
しかし、信長は違いました。
「是非に及ばず」そう言い放つと、即座に弓を取り、槍を持って自ら戦い始めました。
これは「もうダメだ、死のう」という諦めではありません。
「光秀ほどの男が謀反を起こしたなら、周到に準備しているはずだ。
今さら説得も逃走も不可能。
ならば、『なぜ(Why)』を問うている暇はない。今できる『戦い(How)』に全力を注ぐのみ!」
そう瞬時に判断し、思考のスイッチを「分析」から「行動」へと切り替えたのです。
つまり、「是非もなし」とは、過去への執着を断ち切り、現在を生き抜くための「即断」の美学そのものなのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 信長の「是非もなし」は、死を受け入れる言葉ではなく、最期の瞬間まで生きようとする意志の言葉です。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちで、「潔く死んだ」という結果論で語られがちですが、彼は言葉の直後に武器を持って応戦しているからです。この知見が、あなたの成功の助けになれば幸いです。
【ビジネス活用】チームの議論を打ち切り、行動させる「号令」として
この歴史の教訓は、現代のビジネスシーン、特にトラブル対応において強力な武器になります。
システム障害やクレーム対応など、緊急事態が発生した時、会議室でこんな光景を見たことはありませんか?
「誰がやったんだ?」「なんでこんなミスが起きたんだ?」
犯人探しや責任追及という「是非の議論」が始まり、肝心の復旧作業が進まない状況です。
そんな時こそ、リーダーであるあなたの出番です。
思考の切り替えスイッチとして、「是非もなし」のマインドセットを活用してください。
📊 比較表
トラブル発生時、リーダーはどう発言すべきか?
| リーダーのタイプ | 発言内容 | チームへの影響 |
|---|---|---|
| ダメなリーダー (犯人探し) | 「誰の責任だ? なぜこんなことが起きたんだ!」 | メンバーは萎縮し、言い訳を考えることにリソースを割く。 復旧が遅れる。 |
| 信長流リーダー (行動指示) | 「原因究明は後だ。今は復旧が最優先。 是非に及ばず(議論無用)、動こう!」 | メンバーは「過去」ではなく「現在」に集中する。 チーム一丸となって解決に向かう。 |
このように、「Why(原因究明)」と「How(現状対処)」の思考の切り替えを行うための号令として、この言葉は機能します。
もちろん、そのまま「是非もなし!」と叫ぶと驚かれるかもしれませんので、「議論は後だ、今はやるしかない(是非に及ばずだ)」と翻訳して伝えると、より効果的でしょう。
上司に使うのはNG?間違いやすい使い方と類語
最後に、誤用によるリスクを避けるための注意点をお伝えします。
いくらかっこいい言葉でも、使う相手と場面を間違えると、あなたの評価を下げてしまいます。
上司への返答には使わない
上司から理不尽な指示や、急な変更を命じられた時。
「是非もなし(仕方ないですね)」と答えるのはNGです。
前述の通り、この言葉には「議論の余地なし」という意味が含まれます。
目上の人に対して使うと、「あなたと議論する価値もない」「諦めて従います」という、投げやりで失礼なニュアンスに受け取られかねません。
この場合は、「承知いたしました(致し方ありません)」や「やむを得ません」といった言葉を使うのが大人のマナーです。
「是非もなし」は、あくまで自分自身を鼓舞するため、あるいはリーダーがチームの迷いを断ち切るために使う言葉だと心得ておきましょう。
明日、トラブルが起きたら「是非もなし」と心で唱えよ
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
「是非もなし」という言葉が、単なる諦めではなく、未来を拓くための力強い「戦闘宣言」であることがお分かりいただけたでしょうか。
- 原文は「是非に及ばず」。善悪の議論を打ち切る言葉。
- 信長は「なぜ」を捨てて「戦う」を選んだ。即断即決のスイッチ。
- ビジネスでは、トラブル時の「行動開始の号令」として使う。
明日、もし仕事で予期せぬトラブルが起きたり、理不尽な状況に追い込まれたりしたら。
心の中で「是非もなし!」と唱えてみてください。
過去への執着が消え、腹が据わり、「今やるべきこと」だけに集中できるはずです。
その潔い姿こそが、周囲を惹きつけるリーダーシップの正体なのです。
参考文献リスト
- 太田牛一『信長公記』
- デジタル大辞泉「是非に及ばず」 – 小学館
- Forbes JAPAN – リンクタイズ株式会社