「できるだけ家で介護を…」が抱える現実
「親の最期は自宅で迎えさせてあげたい」「できる限り家族で支えたい」――
そんな気持ちを持つ方は多いでしょう。
ですが、在宅介護は想像以上に体力と精神力を必要とします。
初めのうちは「なんとかなる」と思っていても、長期化するにつれ、心や体が追い詰められていくこともあります。
実際に、「介護は家族の愛情で乗り越えるもの」という価値観が残る中で、無理をしてしまう方が少なくありません。
本記事では、在宅介護と施設介護の両方を客観的に見つめ、後悔しない選択をするための視点を丁寧に解説していきます。
在宅介護が抱える“見えない負担”とは
身体的・精神的・経済的な負担
在宅介護では、家族が生活の中心を介護に合わせることになります。
食事、入浴、排泄、服薬管理、病院の付き添い……
これらを1人または数人でこなすのは大きな負担です。
特に夜間の見守りが必要な場合、慢性的な睡眠不足に陥りやすく、体調不良やイライラが続くことも。
さらに、介護用品の購入、医療費、公共料金の増加など、出費がじわじわと家計を圧迫していきます。
精神面でも「ちゃんとできているのだろうか」「もっと優しくしてあげればよかった」という自己否定感が募り、介護うつを引き起こすケースもあります。
介護うつ・介護離職の現状
介護による離職者は年間で10万人前後といわれています。
特に中高年の女性では、「仕事と親の介護の両立が難しい」と感じる人が多く、キャリアを手放す人も少なくありません。
結果的に経済的な不安も増し、「自分の老後はどうなるのだろう」という二重の悩みを抱える方もいます。
在宅介護を支える公的制度とその限界
介護保険制度では、訪問介護(ホームヘルパー)、デイサービス、ショートステイなどの支援を受けられます。
要介護認定を受けると、1〜3割負担でサービスを利用できますが、上限金額があるため、頻繁に利用したい場合には自己負担が増えてしまうのが現実です。
「制度があるのに思ったほど使えない」「申請や手続きが難しい」という声も多く、特に初めて介護に直面した家族にはハードルが高く感じられます。
家族が限界を感じる“サイン”とは?
・夜中のトイレ介助で睡眠不足が続く
・仕事を早退・欠勤することが増えた
・介護中に怒鳴ってしまうことがある
・趣味や人付き合いをやめてしまった
こうした状態が続くときは、すでに心身が限界に近づいているサインです。
頑張り続けるよりも、一度立ち止まり「外の力を借りる」という選択肢を検討することが大切です。
介護施設を利用することは「家族の敗北」ではない
プロによるケアがもたらす安心感
介護施設では、介護職員や看護師、管理栄養士、リハビリ専門職など、多職種がチームで支援してくれます。
食事、入浴、服薬、緊急時の対応まで、24時間体制で見守ってくれる環境は、家族にとっても大きな安心材料です。
施設で守られる本人の尊厳
家庭では難しい“自立支援”も、施設では専門的に行われます。
たとえば、できることは本人にやってもらう「自立支援型介護」は、本人の生きがいを守る重要な考え方です。
適切な距離で支え合うことで、「介護される側」から「共に生きる存在」へと意識が変わっていくこともあります。
費用の現実:在宅 vs. 施設
施設費用は「月10万〜25万円前後」が一般的ですが、在宅介護も実際には月5万〜15万円ほどかかります。
紙おむつ代、介護ベッドレンタル、送迎費、医療用品、光熱費など、細かな出費が積み重なります。
さらに、介護離職による収入減も考慮すると、経済的には大きな差がないケースもあります。
在宅よりも施設が向いているケースとは?
・夜間に徘徊や転倒の危険がある
・認知症が進行し、見守りが必要
・介助が2人以上必要な場面がある
・家族が高齢または病気で支えきれない
こうした場合は、施設の専門的なサポートを受けることで、本人にも家族にも安心をもたらします。
家族が迷ったときに見るべき5つの視点
① 本人の状態(身体・精神・意思)
本人が「家で過ごしたい」と希望しているのか、「専門ケアを受けたい」と感じているのか。
意志を尊重しつつ、現実的に安全かどうかを話し合うことが大切です。
② 介護者の体力と時間的余裕
家族が体調を崩してしまっては、結果的に介護が続けられません。
週1日の休息や、ショートステイなどを利用して“自分を休ませる介護”を意識しましょう。
③ 経済的な継続性
介護費用は短期ではなく、数年単位の「長期戦」として考えるのが現実的です。
貯蓄や年金だけに頼らず、自治体の補助制度や医療費控除なども調べておくと安心です。
④ 住宅環境と地域支援の有無
段差の多い家、浴室が寒い家などは事故のリスクが高まります。
バリアフリー工事には補助金が出ることもあるため、市町村の窓口に相談してみましょう。
⑤ 家族全員の“幸せの形”
「介護=我慢」ではなく、「お互いが穏やかに過ごせる形」を探すことが大切です。
家族会議を開き、全員の意見を共有するのも良い方法です。
失敗しない介護施設選びのコツ
施設の種類を理解しよう
介護施設には、「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「有料老人ホーム」「サービス付き高齢者向け住宅」などさまざまなタイプがあります。
目的(長期滞在かリハビリ中心か)や費用で大きく異なるため、まずは特徴を整理しましょう。
見学時に見るべきポイント
施設の匂い、清掃の行き届き具合、スタッフの声のトーン、入居者の表情。
これらは“その施設の空気”を知る重要なヒントです。
可能であれば平日昼と休日の両方を見学してみましょう。
ケアマネジャーと連携して探す方法
ケアマネジャーは地域の施設事情に詳しく、信頼できる情報を持っています。
希望条件をしっかり伝え、見学や書類手続きのサポートをお願いするのがおすすめです。
契約前に確認すべき費用・退去条件
入居一時金、月額費、介護サービス料、医療費など、細かな項目を確認しましょう。退去時の返金ルールも事前に把握しておくと安心です。
中間的な介護スタイルを知ろう
「在宅」か「施設」かの二択ではなく、その中間にあたる選択肢もあります。
デイサービス+ショートステイで両立する方法
週数回のデイサービスを利用し、家族が休みたいときにはショートステイを使う。
そんな柔軟な形が増えています。
レスパイトケア(介護者の休息を目的とした短期預かり)は特に注目されています。
地域包括支援センターを上手に使う
各自治体に設置されている地域包括支援センターでは、介護保険の申請、施設情報、補助金などを無料で相談できます。
高齢者支援課などに問い合わせると具体的な情報を教えてもらえます。
在宅介護 vs. 介護施設:比較表で見る違い
項目 | 在宅介護 | 介護施設 |
---|---|---|
介護負担 | 家族が中心で大きい | スタッフが対応、家族の負担軽減 |
費用 | 月5〜15万円程度(内容による) | 月10〜25万円程度(施設による) |
安心感 | 家族がそばにいる安心 | 24時間体制で専門ケアが受けられる |
自由度 | 生活の自由度が高い | 施設ルールに合わせる必要あり |
本人の精神面 | 家庭的な温かさ | 社会的なつながりが増える |
「罪悪感」と「安心感」のバランスを取る
「施設に預けるなんて冷たい」と感じてしまう人もいますが、介護施設を選ぶことは“家族の絆を守る選択”でもあります。
介護者が心身ともに疲れ切ってしまう前に、プロの手を借りることは決して悪いことではありません。
介護経験者の声
「施設に預けてから母が穏やかになった」「私自身の笑顔が戻った」など、施設入居後に家族関係が改善するケースも多く見られます。
距離ができることで、かえって愛情を再確認できることもあります。
介護の正解は一つじゃない:笑顔で過ごせる介護を
在宅介護も施設介護も、それぞれに良い点と難しさがあります。
どちらを選んでも「家族を大切に思う気持ち」は変わりません。
大切なのは、「無理をしすぎないこと」「情報を集めること」「誰かに相談すること」。地
域包括支援センターやケアマネジャーなど、専門家の力を借りて、一人で抱え込まない介護を目指しましょう。
家族も本人も笑顔でいられる介護こそが、本当の“やさしさ”です。