介護生活が始まると、「モノを減らしてスッキリさせたい」という気持ちが自然に生まれますよね。
ですが、整理を進める中で「これも捨てていいのかな…？」と迷うものも多いはず。
実は、介護の現場では“残すことで支えになるモノ”も少なくありません。
この記事では、介護に関わるあなたが「今、捨てない方がいいモノ」を見極めるためのヒントを、やさしくご紹介します。
介護と向き合う日々にある“選択”
介護は、毎日が選択の連続です。
時間の使い方、食事の準備、休むタイミング…そして「どのモノを残し、どのモノを手放すか」。
片づけは心を整える手段ですが、なんでも捨てれば身軽になるというわけではありません。
ある50代の女性は、介護を始めた頃に家中を整理しました。
しかし、後から「母がいつも使っていたひざ掛けを捨ててしまったこと」を後悔したそうです。
物には形だけでなく、“記憶”が宿っています。
ときにはその記憶こそが、介護を続ける力になるのです。
介護に必要なのは「心の支え」と「環境のバランス」
介護の現実と心理的負担
介護は想像以上にエネルギーを使うものです。
日々の食事、排泄、入浴、通院のサポートに加え、家事や仕事との両立。
片づけや掃除まで手が回らないこともあるでしょう。
「片づけなきゃ」と思っても、心身が疲れていると判断力も鈍り、必要なものまで捨ててしまうことがあります。
心理カウンセラーの石田美穂さんはこう話します。「片づけは“心の整理”でもありますが、介護期には無理をしないことが大切です。すぐに答えを出さず、『今は保留』という選択肢も、立派な判断ですよ」。
“モノ”が心を守るケースとは？
モノには、人を落ち着かせる力があります。
慣れたカップや湯のみ、愛用の座布団。
これらは単なる道具ではなく、日常を思い出させる安心のサインです。
認知症を持つ方の場合、慣れたモノがあることで混乱や不安を防ぐ効果もあるといわれています。
また、介護をする側にとっても「お気に入りの香り」や「好きな本」はストレスを和らげる大切な要素。
介護と暮らしのバランスは、“物理的な片づけ”だけでなく“心を整える空間づくり”から生まれるのです。
今、捨てるべきではない私物リスト
1. 家族の思い出を象徴するもの
家族の絆を感じられる写真や手紙は、時間が経つほど価値を増すものです。
特に、被介護者にとっては「自分が誰かに愛されてきた記憶」を思い出させる大切な鍵になります。
写真を見ながら昔話をすることで、会話が増え、笑顔が戻ることも多いです。
- 写真アルバム・手紙・古い年賀状などは、デジタル化もおすすめ。
- 小さな額に入れて、居室の見える場所に飾ると安心感が生まれます。
2. 介護者自身を支えるもの
介護をしていると、自分のことは後回しになりがち。
ですが、「自分の好きなもの」をそばに置くことはとても大切です。
お気に入りのアロマやマグカップ、読書用のランプなど、小さな癒やしがあるだけで気持ちはぐっと軽くなります。
ある介護者の方はこう話していました。「夜、母が眠ったあとに温かい紅茶を飲む。
それが自分の一日の“リセット時間”なんです」。
3. 被介護者の“安心感”を支えるもの
高齢者にとって「見慣れたもの」「手触りのよいもの」は、心の安定につながります。
新しい道具を導入するより、使い慣れた物を少しずつ調整して使うのが理想です。
- 長年使っている毛布や衣類（ただし清潔さは維持）
- 愛用の食器やコップ（割れにくい素材に替える工夫も）
ワンポイント：残すものは「使用頻度」「思い入れ」「安全性」の3つで見極めましょう。使わないけれど心の支えになるものは、専用の箱にまとめて保管するのもおすすめです。
反対に「手放しても良い」ものを見極める
整理のコツは、“残すために捨てる”という意識を持つこと。
不要な物を減らすことで、大切な物を守りやすくなります。
1. 機能していない物・重複している物
同じ用途の家電や道具がいくつもあると、探す手間や管理の負担が増えます。
古い物はリサイクルや譲渡も検討しましょう。
2. ネガティブな思い出を呼び起こす物
見ただけで悲しい気持ちになる物は、心の回復を妨げることもあります。
写真に残して手放す、信頼できる人に話してから整理するなど、心に寄り添った手放し方を。
3. 管理が負担になる高価品・大型家具
大きな家具や高価な品は転倒リスクや防犯上の心配も。
信頼できるリユース業者に相談してみるのも一案です。
介護の日常を支える“必要なモノ”リスト
1. 介護用具と便利グッズ
介護の質を高めるためには、環境を「ラクに」「安全に」整えることが大切です。
- 滑り止めマット・手すり・段差スロープなど安全対策
- ポータブルトイレ、防水シーツ、使いやすいワゴン収納
- 夜間照明・呼び出しベル・体温計など日常のサポート機器
2. 快適な空間づくりの工夫
照明の色や部屋の香りを変えるだけでも気持ちは安定します。
柔らかい光、季節の花、心地よい音楽など、“五感を整える工夫”を取り入れてみましょう。
- 家具の角にカバーを付ける・通路を広げる
- 手が届きやすい位置に収納をまとめる
3. 持ち物リストを定期的に更新する方法
人の状態も生活も日々変化します。
月に一度、10分だけ見直す習慣をつけましょう。
- 「残す」「手放す」「保留」の3分類で判断する
- “保留ボックス”には日付をつけ、1か月後に再チェック
- 無理に完璧を目指さず、継続を重視する
介護を続けるための心構えと支え
ストレスを溜めないための小さな習慣
片づけや介護を「頑張りすぎない」ことが長続きのコツ。
疲れたときは“何もしない時間”を意識的に作りましょう。
好きな飲み物を淹れる、深呼吸をする。それだけでも心が軽くなります。
介護者自身のメンタルケア
介護は「チーム戦」。一人で抱え込まず、家族や地域、サービスをうまく頼ることが大切です。
もし孤独を感じたら、同じ立場の人が集まる家族会やSNSグループを探してみてください。
「自分だけじゃない」と思える瞬間が、心の支えになります。
専門家・コミュニティとのつながり
地域包括支援センターやケアマネジャーに相談すると、制度の枠を超えた助言をもらえることも。
迷ったら「相談する勇気」を持ちましょう。
人とつながることは、介護を続ける最大の力になります。
まとめ：モノはあなたと家族の“記憶の橋”
介護において「捨てる・残す」の判断は、単なる整理ではありません。
それは、過去と現在、そして未来をどうつなぐかという選択です。
残したモノが、笑顔や思い出を呼び戻し、あなたの支えになることもあります。
焦らず、少しずつ、自分のペースで。
「片づけなきゃ」ではなく、「大切なものを残そう」という気持ちで向き合ってみてください。