「肯定=イエスマン」ではない。自分の意見を通すための「戦略的肯定」とは

[著者情報]

👤 この記事を書いた人:大木 義男(おおき よしお)

ビジネスコミュニケーション・コンサルタント / 元外資系営業マネージャー
営業成績最下位から「肯定力」を武器にトップセールスへ。著書『否定しない技術』がベストセラー。「イエスマンになる必要はない。むしろ、NOを言うために肯定が必要なんだ」と説く、戦略的なコミュニケーション術を指導している。


上司から「否定から入るな」と注意されて、「自分の意見を殺してイエスマンになれってこと?」とモヤモヤしていませんか?

「でも、明らかに間違っている意見に賛成なんてできない」「自分の考えを言わずに合わせるだけなんて、仕事をしている意味がない」

その気持ち、痛いほどよく分かります。私もかつては「論破こそ正義」と信じ、上司や顧客とぶつかっては評価を下げていました。

しかし、断言します。ビジネスにおける「肯定」とは、相手の言いなりになることではありません。

むしろ、自分の意見(NO)を通すためにこそ、肯定が必要なのです。

この記事では、元外資系営業マネージャーの私が、多くの人が誤解している「同意(賛成)」と「受容(肯定)」の違いを明確にし、自分の意見を通すための最強の武器「Yes, And話法」を伝授します。

媚びずに、賢く、相手を動かす技術を身につけましょう。


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なぜ「否定から入るな」と言われるのか?多くの人が陥る「肯定」と「同意」の混同

まず、言葉の定義を整理しましょう。多くの人が「肯定」に抵抗を感じるのは、「肯定=同意(賛成)」だと思い込んでいるからです。

しかし、ビジネスコミュニケーションにおいて、この2つは明確に区別されます。

  • 同意 (Agreement): 「私もそう思います」と、意見の一致を示すこと。
  • 肯定 / 受容 (Acceptance): 「あなたはそう思うんですね」と、相手の思考や感情の存在を認めること。

上司が求めているのは、前者の「同意(イエスマン)」ではなく、後者の「受容(肯定的な態度)」です。

例えば、あなたが「A案で行くべきだ」と思っている時に、相手が「B案がいい」と言ったとします。

ここで「B案がいいですね(同意)」と言う必要はありません。それは嘘になります。

しかし、「なるほど、あなたはB案がいいと考えているんですね(受容)」と言うことは可能です。

これは事実を認めているだけなので、嘘にはなりません。

「あなたの意見には反対だが、あなたがそう考えることは理解する」

この状態こそが、ビジネスで求められる「肯定」の正体です。

これなら、自分の意見を曲げずに相手を尊重することができます。

「同意」と「受容」の違いを示すベン図

「でも」「だって」は封印せよ。相手の聞く耳を開く「Yes, And話法」

「肯定」の意味が分かったところで、具体的なテクニックの話に移りましょう。

無意識に使ってしまう口癖、「でも(But)」「だって」を封印してください。

人間には「心理的リアクタンス」という性質があり、自分の意見や自由を否定されると、無意識に反発したくなるようにできています。

「でも」と言われた瞬間、相手の脳は「攻撃された」と判断し、防御態勢に入ります。

これでは、その後にどんなに素晴らしい正論を言っても届きません。

そこで使ってほしいのが、「Yes, And話法」です。

まずは「Yes(なるほど、そうですね)」と相手を受け止め、その後に否定の接続詞を使わず、「And(そして、さらに)」で自分の意見を乗せるのです。

📊 比較表
表タイトル: 「Yes, But」と「Yes, And」の会話例

話法会話の流れ相手の受け取り方
Yes, But
(否定)
「なるほど。
でも、コストがかかりすぎます。」
「否定された。
自分の意見は間違っているのか。」
Yes, And
(追加・提案)
「なるほど、品質重視なんですね。
そして(さらに)、コストを抑える工夫も追加できれば最強ですね。」
「受け入れられた。
より良くするための提案だ。」

「でも」を「そして」に変えるだけで、反対意見が「対立」から「建設的な追加提案」に変わります。

これが、相手を不快にさせずに自分の意見を通す、戦略的肯定の基本です。

明らかに間違っている相手も肯定する?「事実」と「感情」を分けるプロの技

「でも、明らかに数字が間違っている時や、論理が破綻している時も肯定するんですか?」

そんな疑問を持つ方もいるでしょう。もちろん、明らかな間違いに対して「その通りです」と言うのは不誠実です。

その場合は、「事実(間違い)」は指摘しつつ、「感情(その考えに至った背景)」だけを肯定するという高等テクニックを使います。

  • NG例: 「そのデータは古いです。今はこうなっています。」(事実も感情も否定)
  • OK例: 「そのデータに着目されたのは鋭いですね(感情の肯定)。ただ、最新の調査ではこのような変化も出ているようです(事実の修正)。」

相手がなぜその意見を持ったのか、その「背景」や「意図」に焦点を当てて肯定するのです。

「着眼点はいい」「熱意は伝わる」など、肯定できるポイントは必ずあります。

「あなたの顔は立てる。でも、事実は修正させてもらう」

このスタンスが、プロの仕事です。

肯定は「負け」ではない。心理的安全性があなたの評価を上げる理由

ここまで読んでもまだ、「肯定するのは、なんだか負けた気がする」というプライドが邪魔をするかもしれません。

しかし、Googleの研究(プロジェクト・アリストテレス)でも証明されている通り、チームの生産性を高める唯一無二の要素は「心理的安全性(何を言っても否定されない安心感)」です。

あなたが肯定的な態度を取ることは、相手への媚びではなく、チームのパフォーマンスを最大化するための「貢献」なのです。

「あの人は、どんな意見でもまずは受け止めてくれる」
「あの人と話すと、建設的な議論ができる」

そう周囲に認知されれば、あなたの元には自然と情報が集まり、協力者が増えます。

結果として、あなたの評価は上がり、自分のやりたい仕事が通りやすくなるでしょう。

肯定は「負け」ではありません。自分の意見を通すための、最も賢い「投資」なのです。

よくある質問(FAQ)

最後に、肯定に関するよくある疑問にお答えします。

Q. 嫌いな上司も肯定しなきゃダメですか?
A. 好き嫌いと肯定は別です。 肯定は、仕事を進めるための「機能」として割り切りましょう。「この人の性格は苦手だが、この意見の背景には一理ある」と、感情と事実を切り離して対応するのがプロです。

Q. 肯定ばかりしてたらナメられませんか?
A. 自分の意見(And)をしっかり言えば、ナメられません。 ただニコニコして同意するだけならナメられますが、「受け止めた上で、より良い提案をしてくる人」は、むしろ尊敬されます。


まとめ:「肯定」は武器だ。明日から「なるほど」を口癖にしよう

「肯定」とは、相手に服従することではありません。

相手の存在を認め、聞く耳を開かせ、自分の意見を届けるための「最強の武器」です。

イエスマンになる必要はありません。

まずは、口癖の「でも」を飲み込み、「なるほど」と言ってみてください。

そして、「実は…」と自分の意見を続けてみてください。

今まで反発していた相手が、「それも一理あるな」と耳を傾けてくれる瞬間が必ず訪れます。

明日からの会議、まずは「肯定」から始めてみませんか?

[参考文献リスト]

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