その動悸、心臓の病気?それともストレス? 医師が教える『危険なサイン』の見分け方と、今すぐ心を落ち着ける呼吸法

田川 学(循環器内科医 / 産業医)

この記事の著者:田川 学(循環器内科医 / 産業医)

総合病院の循環器内科で15年勤務後、現在は企業の産業医として、過労やストレスで体調不良を訴えるビジネスパーソンを多数診察。「あなたの動悸は、体が発している重要なメッセージです。怖がらず、正しく読み解きましょう」をモットーに、働く人の心臓を守る活動を行っている。

夜中にふと目が覚めて、心臓がドクドクと波打っている。

会議中に急に息苦しくなり、冷や汗が出てくる。

そんな症状に襲われた時、「もしかして心臓病?」「このまま過労死してしまうのでは?」と不安になっていませんか?

循環器内科医として多くの患者さんを診てきましたが、働き盛りの世代でこの症状を訴える方は非常に多いです。

まずお伝えしたいのは、その動悸の9割は、あなたの命を奪うものではないということ。

しかし、残りの1割を見逃さないために、今日はプロの視点で『見分け方』をお話しします。

この記事では、医学的な根拠に基づいて「危険な動悸」と「ストレス性動悸」の見分け方を解説します。

多くの場合はストレスが原因ですが、自己判断は禁物です。

正しい知識で不安を解消し、適切な対処法を身につけましょう。


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なぜ、リラックスしている時に動悸が起きるのか?「心と体」のメカニズム

「運動もしていないのに、なぜ心臓がドキドキするの?」

これが、多くの患者さんが抱く最大の疑問です。

実は、動悸とストレスには密接な関係があります。

私たちの体は、自律神経というシステムによってコントロールされています。

自律神経には、活動モードの「交感神経(アクセル)」と、リラックスモードの「副交感神経(ブレーキ)」があり、これらがバランスを取り合って心臓の動きを調整しています。

通常、夜間や休日は副交感神経が優位になり、心拍数は落ち着くはずです。

しかし、仕事のプレッシャーや人間関係などの慢性的なストレスが続くと、脳が常に「戦闘状態」だと誤認し、交感神経を刺激し続けてしまいます。

その結果、本来リラックスすべき時でもアクセルが踏みっぱなしの状態になり、心臓が過剰に拍動してしまうのです。これが、安静時に起こる動悸の正体です。

つまり、心臓そのものが悪いのではなく、心臓への指令系統(自律神経)が暴走している状態と言えます。

ストレスが脳→自律神経→心臓へと伝わるメカニズム図

【セルフチェック】これがあったら即病院へ!見逃してはいけない「危険な動悸」のサイン

とはいえ、すべての動悸がストレスのせいだと決めつけるのは危険です。

中には、心筋梗塞や致死的な不整脈など、命に関わる病気が隠れていることもあります。

そこで、私たち医師が診察時に必ず確認する「危険な動悸のサイン(Red Flags)」をお伝えします。

以下の項目に当てはまる場合は、迷わずすぐに病院へ行ってください。

危険な動悸チェックリスト(Red Flags)

  • 運動中や階段を登っている時に起こる
    • 安静時ではなく、体に負荷がかかった時に症状が出る場合は、狭心症などの可能性があります。
  • 胸の痛み、圧迫感、冷や汗を伴う
    • 「胸が締め付けられる」「象に乗られたような重苦しさ」がある場合は要注意です。
  • 意識が遠のく、失神する
    • 脳への血流が滞っている証拠です。これは最も危険なサインの一つです。
  • 脈がバラバラに打つ
    • 脈のリズムが完全に不規則な場合は、「心房細動」という不整脈の疑いがあります。脳梗塞のリスクにもなるため、早めの治療が必要です。

逆に言えば、これらのサインがなく、安静時に「ドキドキする」「脈が速い気がする」程度であれば、緊急性は低いと考えられます。

まずは深呼吸をして、落ち着いて様子を見ても大丈夫です。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 「脈が飛ぶ(一瞬止まる)」感覚があっても、その後にすぐ正常なリズムに戻り、めまいや痛みがなければ、過度に心配する必要はありません。

なぜなら、これは「期外収縮」と呼ばれる現象で、健康な人でも疲れやストレスで頻繁に起こるものだからです。私も当直明けなどでよく経験します。

ただし、頻度が極端に多い場合や、連発して苦しい場合は受診をおすすめします。

循環器内科?心療内科? 迷った時の受診フローチャート

「病院に行こうと思うけど、何科に行けばいいの?」

これもよくある質問です。ストレスが原因だと思うと「心療内科」を思い浮かべるかもしれませんが、まずは「循環器内科」を受診するのが鉄則です。

なぜなら、心療内科や精神科では、心臓の詳しい検査(心エコーやホルター心電図など)ができないことが多いからです。

もし万が一、隠れた心臓病を見逃したまま「うつ病」などの治療を始めてしまうと、命に関わるリスクがあります。

まずは循環器内科で「心臓に器質的な異常(形や機能の問題)がないこと」を証明してもらいましょう。

これを医学用語で「除外診断」と言います。

「心臓は大丈夫です」というお墨付きをもらうこと自体が、最大の安心材料となり、それだけで動悸が治まってしまう患者さんもたくさんいます。

動悸を感じた時の受診フローチャート

今すぐ動悸を鎮めたい!医師も実践する「副交感神経スイッチ」の入れ方

病院に行くほどではないけれど、今まさに動悸がして辛い。

そんな時に、その場でできる対処法をご紹介します。

薬に頼る前に、まずは体のスイッチを強制的に「リラックスモード」に切り替えてみましょう。

1. 「1:2」の腹式呼吸法

呼吸は、自律神経に直接アプローチできる唯一の方法です。

ポイントは「吸う時間の倍かけて吐く」こと。息を吐く時に、副交感神経が優位になります。

  1. 背筋を伸ばして座り、軽く目を閉じます。
  2. 鼻から3秒かけて息を吸います。
  3. 口をすぼめて、6秒かけて細く長く息を吐き切ります。
  4. これを5分間繰り返します。

2. 冷水洗顔(潜水反射)

洗面器に冷水を張り、顔をつける(または冷たいタオルを顔に当てる)と、「潜水反射」という生体反応が起き、反射的に心拍数が下がることがあります。

これは哺乳類に備わっている本能的な機能です。

パニックになりそうな時に試してみてください。

まとめ:動悸は体からのメッセージ。正しく恐れて、適切に対処しよう

動悸は、不快で怖いものです。

しかし、それはあなたの体が「ちょっと頑張りすぎだよ」「そろそろ休もうよ」と必死に伝えているメッセージでもあります。

「気のせいだ」と無視したり、逆に「死ぬかもしれない」とパニックになったりせず、まずは冷静に受け止めてください。

  1. 危険なサイン(Red Flags)がないかチェックする。
  2. 呼吸法で心を落ち着ける。
  3. それでも続くなら、循環器内科で「安心」を手に入れる。

自分の体を守れるのは、自分だけです。

もし不安が消えないなら、明日、近くの循環器内科を予約することから始めてみませんか?

その一歩が、あなたの心と体を守る大きな前進になるはずです。


参考文献

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