「一番近いヨーロッパ」は今や「一番遠い国」。2025年ウラジオストク渡航のリアルとスマホのリスク

インスタで見かけた、石畳の街並みと美味しいボルシチ。

「コロナが明けたら行こう」と思っていたのに、気づけば世界は一変していました。

「今、ロシアってどうなってるの? 本当に行けないの?」

そんな疑問を抱くあなたへ。

結論から言えば、行くことは物理的に可能です。

しかし、かつてのような「週末弾丸旅行」はもう存在しません。

そこにあるのは、複雑な経由ルートと、入国審査での緊張感、そしてデジタル社会から切り離される不便さです。

この記事では、ロシア極東に5年間駐在し、現在も現地の情報を追い続ける私が、2025年現在のウラジオストク渡航のリアルをお伝えします。

特に、IT企業にお勤めのあなたが直面する「デジタル・プライバシーのリスク」については、目を背けずに読んでいただきたいと思います。


[著者情報]

この記事を書いた人:カール・タカハシ (Curl Takahashi)
ロシア極東トラベルジャーナリスト / 元ウラジオストク駐在員
ウラジオストクに5年間駐在し、現地メディアでコラムを連載。帰国後も独自のルートで現地情報を収集し、noteやSNSで発信中。「行くなとは言わない。でも、丸腰で行くのは自殺行為だ」を信条に、現地の友人を持ち、街を愛するがゆえに、厳しい現実も隠さず伝えるリアリスト。

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【現状】直行便は消滅。それでも行くための「2つのルート」

まず、物理的な移動手段についてです。かつて成田からわずか2時間半で飛んでいた直行便は、現在すべて運休しています。

それでもウラジオストクへ行くためのルートは、大きく分けて2つあります。

📊 比較表
2025年現在のウラジオストク渡航ルート比較

ルート経由地所要時間 (片道)費用 (往復目安)特徴
空路中国 (北京/上海)丸1日〜15万円〜毎日飛んでいるが、乗り継ぎ待ち時間が長い。費用も高騰。
海路韓国 (東海)2日6万円台〜週1便のフェリー「Eastern Dream号」。時間はかかるが安い。

空路(中国経由)は、北京や上海での乗り継ぎが必要です。

かつてのような気軽さはなく、移動だけで丸一日を要する「遠い国」になってしまいました。

一方、海路(韓国経由)は、鳥取県の境港から韓国の東海(トンヘ)を経由してウラジオストクへ向かうフェリー「Eastern Dream号」を利用します。

こちらは週1便ですが、往復6万円台からと比較的安価です。

ただし、片道2日かかるため、長期休暇が取れる人向けの選択肢となります。

どちらのルートを選ぶにせよ、かつての「週末旅行」感覚では到底たどり着けない場所になっていることを覚悟してください。

IT系会社員が最も恐れるべき「入国審査とスマホチェック」

ここからが本題です。特にIT企業にお勤めのあなたにとって、最大のリスクは治安ではありません。「入国審査」です。

現在、ロシアの空港や港での入国審査は非常に厳格化しています。

特に日本人男性(一人旅)は、高確率で「別室」に呼ばれる可能性があります。

別室では、指紋採取や渡航目的の尋問が行われますが、最も恐ろしいのは「スマホの中身チェック」です。

審査官は、あなたのスマートフォンのロック解除を求め、中身をチェックすることがあります。

  • 写真フォルダ: 軍事施設やデモの写真がないか
  • SNS (LINE, Facebook, X): 政治的な発言や、ウクライナ情勢に関する投稿、友人とのやり取りがないか

もし、ウクライナ支援を表明する投稿や、ロシア政府に批判的なメッセージが見つかれば、入国拒否はもちろん、最悪の場合はスパイ容疑などで拘束されるリスクもゼロではありません。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス

【結論】: 渡航するなら、必ず「捨てスマホ」を持っていくか、主要アプリを削除してください。

なぜなら、あなたのプライバシーや会社の機密情報を守るためです。普段使っているスマホをそのまま持ち込むのは、家の鍵を開けたまま外出するようなもの。初期化した端末に必要な連絡先だけを入れた「渡航専用スマホ」を用意するのが、現代のロシア渡航における必須の自衛策です。

クレカ全滅。現金のみで生き抜く「決済サバイバル」

無事に入国できたとしても、次なる試練が待っています。

それは「決済手段の欠如」です。

現在、ロシア国内ではVISA、Mastercard、JCBなどの日本発行のクレジットカードは一切使えません。

Apple PayやGoogle Payも無効です。

つまり、現地での支払いは「現金(ルーブル)」が頼りです。

  • 現金の準備: 日本円または米ドルを多めに持ち込み、現地の銀行でルーブルに両替する必要があります。もし現金が尽きれば、そこで詰みます。
  • 配車アプリ: ウラジオストク観光に欠かせない配車アプリ「Yandex Go」も、日本のカードは登録できません。現金払い設定で利用することになりますので、常に小銭を用意しておく必要があります。

「カードが使えない」という事実は、想像以上にストレスと不安を与えます。

財布の紐を握りしめながらの旅行は、純粋に楽しむことを難しくするかもしれません。

それでも行く価値はあるか?現地の「今」と治安

ここまで厳しい現実をお伝えしましたが、現地の様子はどうなのでしょうか。

街は、表面上は驚くほど平穏です。

カフェやレストランは賑わい、若者たちは以前と変わらず街を歩いています。

対日感情についても、個人のレベルで悪化していると感じることは少ないでしょう。

ロシアの人々は、政治と個人を分けて考える傾向があり、親切にしてくれる人も多いです。

しかし、街の空気は確実に変わりました。

欧米ブランドの看板は外され、街中には見えない緊張感が漂っています。

今のウラジオストクを見ることは、観光というよりも「歴史の目撃者」になることに近いです。

その緊張感を含めて体験したいという強い動機があるなら、行く価値はあるかもしれません。

しかし、単に「ヨーロッパの雰囲気を楽しみたい」という動機なら、リスクとコストは見合わないでしょう。

「行かない勇気」もまた、旅人の選択

ウラジオストクへの渡航は、現在、外務省により「レベル3:渡航中止勧告」が出されています。

これは、多くの海外旅行保険が適用されないレベルの警告です。

物理的には行けます。

しかし、そこにはデジタル・プライバシーのリスク、決済の不便さ、そして万が一の際の保証がないという現実があります。

それでも行きたいという情熱があるなら、捨てスマホや現金の準備を万全にして挑んでください。

しかし、少しでも迷いがあるなら、今は「待つ」ことも賢明な選択です。

いつかまた、直行便で気軽にボルシチを食べに行ける日が来ることを信じて、今はGoogleマップで街並みを眺めるだけにしておくのも、立派な旅人の選択肢の一つです。


[参考文献リスト]

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