この記事の著者:小野 加代 (Kayo Ono)
書道師範・現代礼法講師
書道教室運営歴20年。企業の総務部向けに「恥をかかない筆ペン講座」を多数開催。「マナーの鬼」ではなく「字にコンプレックスを持つ人の味方」として、形式よりも心が伝わる書き方を指導している。
後輩や親戚への出産祝い。
お祝いを渡したい気持ちはあるのに、いざご祝儀袋を前にすると手が止まってしまいませんか?
「字が汚いから失礼にならないか」
「書き損じたらどうしよう」
「表書きは4文字だと縁起が悪いって本当?」
そのプレッシャー、痛いほど分かります。
普段パソコンやスマホばかり使っていると、筆ペンを持つ手が震えてしまうのは当然のことです。
でも、安心してください。
相手が見ているのは、達筆かどうかではなく、「私のために時間をかけて書いてくれたか」という痕跡です。
そして何より、現代には「字に自信がなくても、品格ある文字を書くための裏技」があります。
この記事では、筆ペンが苦手な人でも失敗しない「なぞり書き」テクニックと、絶対に外してはいけないマナーの正解を、書道師範の視点から優しく解説します。
書く前に3秒確認!「袋と水引」の選び方で9割決まる
筆を持つ前に、まずは手元のご祝儀袋を確認してください。
実は、書き方以前に「袋選び」で致命的なミスをしてしまうケースが非常に多いのです。
「蝶結び」と「結び切り」の違いは命取り
ご祝儀袋の水引には、大きく分けて「蝶結び(花結び)」と「結び切り」の2種類があります。
この2つは対立する意味を持っており、間違えると大変な失礼にあたります。
- 蝶結び(花結び): 何度でも解いて結び直せることから、「何度あっても良いお祝い」に使います。出産祝いはこれを選びます。
- 結び切り: 一度結んだら解けないことから、「二度と繰り返さないでほしいお祝い(結婚)」や「お悔やみ」に使います。出産祝いでこれを使うのは絶対NGです。
金額と袋の「格」を合わせる
また、中に入れる金額と袋の豪華さにはバランスが必要です。
中身が5千円なのに、豪華な水引がついた袋を使うと「中身が負けて」しまい、かえって恥ずかしい思いをすることになります。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 迷ったら、パッケージの裏面を見てください。
なぜなら、市販のご祝儀袋には必ず「用途:出産祝い」「目安金額:1万円〜3万円」といった記載があるからです。デザインだけで選ばず、この記載を確認するのが最も確実なリスク回避術です。
【表書き】「御出産御祝」か「御祝」か?迷ったらこう書く
袋が決まったら、いよいよ表書きです。
「御祝」と書くべきか、「御出産御祝」と書くべきか。ここでも迷うポイントがありますね。
4文字を避けるなら「御祝」が無難
一般的に、出産祝いの表書きは「御出産御祝」が最も丁寧です。
しかし、中には「4文字=死文字」として縁起を気にする方もいらっしゃいます。
もし相手がマナーに厳しい方だったり、少しでも不安がある場合は、「御祝」の2文字を選ぶのが最も無難で万能な選択肢です。
どちらを選んでもマナー違反ではありませんので、安心してください。
連名の書き方ルール
職場の同僚などで連名にする場合は、以下のルールに従いましょう。
- 3名まで: 目上の人を右側に書き、順に左へ並べます。
- 4名以上: 代表者の名前を中央に書き、その左側に少し小さく「外一同」と書きます。全員の名前は別紙に書いて中に入れます。
- 夫婦: 夫の氏名を中央に書き、妻の名前(名のみ)をその左側に、夫の名前の高さに合わせて書きます。
筆記具は「濃墨の筆ペン」一択
ここでボールペンやサインペンを使うのはNGです。
必ず「筆ペン」を使いましょう。
また、薄墨(うすずみ)は香典用ですので、必ず「濃墨(こいずみ)」の黒いインクのものを選んでください。
【中袋】「金 壱萬圓」…大字(旧字体)の早見表
中袋(中包み)には、金額と住所・氏名を書きます。
ここで登場するのが、普段使わない「大字(だいじ)」です。
なぜ難しい漢字(大字)を使うのか?
「一、二、三」ではなく「壱、弐、参」を使う理由は、改ざん防止のためです。
「一」に線を足して「十」にしたりできないように、画数の多い漢字を使うのが正式なマナーです。
最近は算用数字(1, 2, 3)でも許容される傾向にありますが、目上の方へ贈るなら大字を使うのがスマートです。
以下の早見表を見ながら、そのまま書き写してください。
📊 比較表
金額別・大字(旧字体)書き方早見表
| 金額 | 漢数字(略式) | 大字(正式・推奨) | 完成見本(縦書き) |
|---|---|---|---|
| 3,000円 | 三千円 | 参阡圓 | 金 参阡圓 也 |
| 5,000円 | 五千円 | 伍阡圓 | 金 伍阡圓 也 |
| 10,000円 | 一万円 | 壱萬圓 | 金 壱萬圓 也 |
| 20,000円 | 二万円 | 弐萬圓 | 金 弐萬圓 也 |
| 30,000円 | 三万円 | 参萬圓 | 金 参萬圓 也 |
| 50,000円 | 五万円 | 伍萬圓 | 金 伍萬圓 也 |
| 100,000円 | 十万円 | 拾萬圓 | 金 拾萬圓 也 |
※「也(なり)」はつけてもつけなくても構いませんが、つけるとより締まった印象になります。
※「円」は「圓」と書くのが正式ですが、「円」でも問題ありません。
住所・氏名は「読みやすさ」優先で
中袋の裏面には、あなたの住所と氏名を書きます。
これは相手が内祝い(お返し)を送る際に必要な情報です。
ここに関しては、筆ペンが苦手ならボールペンを使っても許容されます。
無理に筆ペンで書いて読めなくなるより、ボールペンではっきりと読みやすく書く方が、相手への親切(思いやり)になります。
師範直伝!字が下手でも「達筆」に見せる3つの裏技
「ルールは分かったけど、やっぱり自分の字に自信がない…」
そんなあなたに、書道師範としてとっておきの裏技を伝授します。
1. スマホを透かして「なぞり書き」
これが最強の裏技です。
スマホの画面に「御祝」や「自分の名前」を教科書体などで表示させます。
画面の輝度(明るさ)を最大にして、その上にご祝儀袋(または短冊)を置くと……文字が透けて見えますよね?
あとはそれを筆ペンでなぞるだけ。これなら絶対にバランスが崩れません。
※袋が厚手で透けない場合は、窓ガラスに押し当てて太陽光で透かす方法もあります。
2. 中心線を鉛筆で薄く引く
文字が曲がってしまうのが一番の見栄えの悪さの原因です。
定規を使って、鉛筆で薄く中心線を引いてから書きましょう。
書き終わってインクが完全に乾いたら、消しゴムで消せばOKです。これだけで「整った字」に見えます。
3. 余白を恐れない
字を大きく書きすぎて、袋からはみ出しそうになっていませんか?
上下左右にたっぷりと余白を持たせることで、文字自体が多少下手でも「上品」に見えます。
「余白もデザインの一部」と心得て、少し小さめに書くのがコツです。
その「ひと手間」が、最高のギフトになる
マナーとは、形式を守ることだけではありません。
「相手に失礼がないように」「喜んでもらえるように」と心を砕く、そのプロセスそのものがマナーなのです。
今日ご紹介した裏技を使えば、字に自信がなくても、必ず「品格あるご祝儀袋」が完成します。
多少線が震えていても構いません。
あなたが一生懸命書いた文字は、印刷された文字よりもずっと温かく、相手の心に響くはずです。
さあ、深呼吸して。
まずはスマホで見本を表示するところから始めてみましょう。
そのひと手間が、お金以上の価値を持つ最高のギフトになります。