👤 著者プロフィール: 高橋 五郎(戦略プランナー / ビジネス思考コーチ)
大手広告代理店で10年間のプランニング経験を経て独立。現在は若手マーケター向けの研修講師として、延べ3,000人以上の「現場で使えるロジカルシンキング」を指導。「抽象的な概念を実務レベルに落とし込む」解説に定評がある。
「上司の無茶振りは、あなたの思考を磨く最高の砥石です。一緒に乗り越えましょう。」
会議中、自信満々で企画をプレゼンしている最中に、上司からこんな言葉を投げかけられたことはありませんか?
「それ、相対的に見てどうなの?」
この一言で頭が真っ白になり、「えっと、他と比べても良いと思います……」と、しどろもどろになってしまった経験。
実はこれ、多くの若手ビジネスパーソンが一度は通る道です。
私も新人の頃、この「相対的」という言葉の壁に何度もぶつかり、企画書を突き返された苦い記憶があります。
辞書で「相対的」と引くと、「他との比較において成り立つさま」と出てきます。
しかし、上司が求めているのは、そんな国語辞典の意味ではありません。ビジネスの現場において、上司はこの言葉を使って「競合と比べて、ウチが勝てる根拠(ロジック)を示せ」と迫っているのです。
この記事では、単なる言葉の意味解説にとどまらず、明日から上司のツッコミに即答できる「3つの回答テンプレート」と、商品の魅力を論理的に伝えるための「マーケティング思考」までを解説します。
「相対的」という言葉を使いこなせるようになった時、あなたの提案は「個人の感想」から「勝てる戦略」へと進化します。
さあ、言葉の解像度を上げて、自信を持って会議に臨みましょう。
1分でわかる「相対的」と「絶対的」の決定的な違い
まずは、ビジネス思考の土台となる「言葉の定義」を明確にしましょう。ここが曖昧だと、議論の前提が崩れてしまいます。
「相対的(Relative)」と「絶対的(Absolute)」は、互いに補完し合う対義語の関係にあります。
それぞれの決定的な違いを一言で表すと、以下のようになります。
- 相対的: 価値が「他者との比較」によって決まること(他者依存)
- 絶対的: 価値が「それ自体」で決まり、比較対象を必要としないこと(自己完結)
例えば、「時速100km」というスピードは、歩行者から見れば「相対的に速い」ですが、新幹線から見れば「相対的に遅い」となります。
これが「相対的」な視点です。一方で、「光の速度」は誰から見ても変わりません。
これが「絶対的」な視点です。
この関係性を、以下の図解と表で整理しました。

📊 比較表
ビジネスにおける「相対的」と「絶対的」の対比
| 項目 | 相対的 (Relative) | 絶対的 (Absolute) |
|---|---|---|
| 定義 | 他との関係や比較によって価値が決まる | 他と比較せず、それ自体の価値で決まる |
| キーワード | 比較、関係性、状況次第 | 唯一無二、普遍、完全 |
| 具体例 | 偏差値、市場シェア、順位 | 点数(素点)、真理、ブランドの世界観 |
| メリット | 客観的な立ち位置(優劣)が明確になる | 環境変化に左右されない強さがある |
| デメリット | 比較対象が変わると評価も変わる | 独りよがりになりやすく、客観性を欠く |
このように、「相対的」と「絶対的」は対立する概念ですが、ビジネスではこの2つの視点を状況に応じて使い分けることが求められます。
どちらが良い悪いではなく、「今はどちらのレンズで見るべきか?」を判断することが重要なのです。
なぜ上司は「相対的にどうなの?」と聞くのか?
言葉の意味は理解できても、「なぜ上司はわざわざこの言葉を使って詰めてくるのか?」という疑問は残るかもしれません。
結論から言えば、上司はあなたを困らせたいわけでも、意地悪をしているわけでもありません。
上司が確認したいのは、あなたの提案における「客観的な勝算(ポジショニング)」なのです。
ビジネスにおいて、何かを提案するということは、会社の資源(人・モノ・金)を投資してもらうことを意味します。
その際、判断材料として最も重要なのが「他と比べてどうなのか?」という視点です。
もしあなたが「この新商品はすごく性能が良いんです!(絶対的視点)」とだけ主張しても、上司は「で、競合のA社より売れるの?(相対的視点)」という不安を拭えません。
上司の「相対的にどうなの?」という問いは、「比較対象がないと、この提案が良いのか悪いのか判断できないから、判断基準をくれ」というSOSのサインでもあるのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 上司の「相対的に?」は、「比較対象」と「定量的根拠」をセットで提示せよ、という業務命令だと翻訳しましょう。
なぜなら、この点は多くの若手が見落としがちで、つい「自分の頑張り」や「商品の想い」といった主観(絶対的視点)だけで説得しようとしてしまうからです。
私もかつて、「こんなにこだわって作りました!」と熱弁して、「それは分かったけど、客観的に見て勝てるの?」と返され、ぐうの音も出なかった経験があります。
この問いをクリアすることは、あなたの提案を「客観的な事実」に昇華させるための通過儀礼なのです。
【実践編】明日から使える「3つの回答テンプレート」
では、実際に上司から「相対的にどうなの?」と聞かれた際、どのように切り返せばよいのでしょうか。
ここで、私が若手社員に必ず教えている「3つの回答テンプレート」を伝授します。
このテンプレートのポイントは、「比較対象(Anchor)」「評価軸(Axis)」「定量的根拠(Evidence)」の3要素を必ず含めることです。
これらを組み合わせることで、論理的で隙のない回答が完成します。
テンプレート:3要素の組み合わせ構文

NG例とOK例の比較
- ❌ NG回答(主観のみ)
「他社よりも使いやすくて、すごく良い製品だと思います。」- (上司の心の声:誰と比べて? 「使いやすい」の基準は? それは君の感想だよね?)
- ⭕ OK回答(相対的視点あり)
「業界シェア1位のX社(比較対象)と比較して、機能の多さでは劣りますが、操作の習得時間(評価軸)においては、平均して半分の時間で済むという(定量的根拠)相対的な強みがあります。そのため、ITリテラシーが高くない層には確実に刺さります。」- (上司の心の声:なるほど、ターゲットを絞れば勝てるというロジックか。それなら承認できるな。)
このように、上司の問いに対して、比較対象と評価軸を明確に提示することで、議論の土俵を「感想」から「戦略」へと引き上げることができます。
これこそが、ビジネスにおける「相対的」という言葉の正しい使い方です。
マーケティングで使い分ける「相対的価値」と「絶対的価値」
ここまでは「上司への報告」という社内向けの視点でお話ししましたが、この考え方はマーケティング戦略、つまり「顧客へのアプローチ」においても非常に強力な武器になります。
マーケティングの世界では、「相対的価値」と「絶対的価値」を、顧客のフェーズに合わせて使い分けることが重要です。
1. 相対的価値:新規顧客を獲得する「スペックの戦い」
まだ自社の商品を知らない顧客は、常に何かと比較しながら商品を探しています。
「A社より安い」「B社より速い」「C社より高機能」。これが相対的価値です。
このフェーズでは、相対的価値を明確にすることが、市場における自社のポジショニング(立ち位置)を確立することに直結します。
競合他社と比べてどこが優れているのかを数字や機能で示すことで、顧客に「選ぶ理由」を提供します。
2. 絶対的価値:ファンを作る「世界観の戦い」
一方で、一度商品を使って気に入ってくれた顧客に対しては、比較の話をし続ける必要はありません。
「このブランドが好きだから買う」「この世界観に共感するから応援する」。これが絶対的価値です。
AppleのiPhoneを発売日に並んで買う人たちは、他社のスマホとスペックを細かく比較しているわけではありません。
「Apple製品を持つこと」自体に価値を感じているのです。
最終的に目指すべきは、この「比較されない状態(指名買い)」を作ることです。
結論として、マーケティングにおいては「相対的価値(比較)」で入り口を作り、「絶対的価値(体験)」で出口を塞ぐ(ファン化する)という流れを設計することが、プロの戦略プランナーの仕事です。
よくある質問(相対的貧困、相対評価など)
最後に、「相対的」という言葉に関連して、ビジネス以外の文脈でもよく耳にする疑問について簡潔にお答えします。
教養として知っておくと、恥をかかずに済みます。
Q1. ニュースで聞く「相対的貧困」とはどういう意味ですか?
「その国や社会の標準的な生活水準と比較して、貧しい状態」を指します。
これに対し、生きるために最低限必要な衣食住が足りていない状態を「絶対的貧困」と呼びます。日本などの先進国で問題になるのは、主に周囲との格差を指す「相対的貧困」の方です。
Q2. 人事評価の「相対評価」と「絶対評価」はどう違いますか?
- 相対評価: 集団内での順位によって評価が決まる方式(例:S評価は上位10%まで)。競争を促すメリットがありますが、全員が優秀でも誰かが低評価になるデメリットがあります。
- 絶対評価: あらかじめ決めた目標を達成できたかどうかで評価が決まる方式。個人の成長を見やすいですが、評価基準の設定が難しいという特徴があります。
近年は、成果主義の浸透に伴い、納得感を高めるために絶対評価を取り入れる企業が増えています。
まとめ:「相対的視点」を持てば、あなたの提案はもっと強くなる
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
「相対的」という言葉が、単なる「比較」という意味を超えて、ビジネスにおける強力な思考ツールであることを理解していただけたでしょうか。
- 相対的とは、他者との比較で自分の立ち位置(ポジショニング)を証明すること。
- 上司の「相対的に?」は、「比較対象」と「根拠」を求めるサイン。
- テンプレートを使って、客観的なロジックで切り返す。
次に上司から「それ、相対的に見てどうなの?」と聞かれたら、焦る必要はありません。
それは、あなたがプロとして「勝てる根拠」を示す絶好のチャンスです。
今回ご紹介したテンプレートと視点を武器に、自信を持ってあなたの企画を提案してください。
論理的に武装されたあなたの言葉は、きっと上司の心を動かすはずです。
[参考文献リスト]
- 大前研一 (著) 『[新版] 企業参謀 戦略的思考とは何か』 プレジデント社
- マイケル・E・ポーター (著) 『競争の戦略』 ダイヤモンド社
- Mission Driven Brand | ビジネスに必須のビジネス思考力【10種類】を解説
- Diamond Online | 戦略を考えるとき、いちばん大事なこととは?