[著者情報]
この記事の著者:山口 壮太(救急救命士 / 救急医療ケアアドバイザー)
救急現場歴15年。延べ3,000人以上の市民向け救急講習会で講師を務める。「救急車を呼ぶ前に読む本」監修協力。現場のプロとして、教科書的な知識ではなく、「今、目の前で起きていること」への具体的な対処法を提示します。
夕食の片付けをしている最中、急に背中がゾクゾクし始め、「あれ?暖房切れたかな?」と思ったのも束の間、気づけば歯がガチガチ鳴るほどの激しい震えに襲われている…。
そんな突然の体調変化に、驚きと不安を感じていませんか?
「ただの風邪じゃないかもしれない」「このまま熱が上がり続けたらどうしよう」と、恐怖を感じるのも無理はありません。
でも、まずは落ち着いてください。
その震えは、あなたの体がウイルスという侵入者と戦うために、体温を急上昇させようとしている正常な防御反応です。
無理に震えを止めようとしたり、慌てて薄着になったりする必要はありません。
むしろ、震えが止まるまでは徹底的に温めることが、今のあなたにできる最善の応援です。
この記事では、救急現場での経験を基に、「いつまで温めればいいのか」を手足の温度だけで判断する方法と、救急車を呼ぶべき危険なサインの見分け方を解説します。
読み終える頃には、今の状況を冷静に管理し、翌朝どう行動すべきかが明確になっているはずです。
なぜガタガタ震えるの?「悪寒戦慄」は体がウイルスと戦うための準備運動
ガタガタと体が勝手に震えるこの状態、医学的には「悪寒戦慄(おかんせんりつ)」と呼びます。
文字通り、寒気と共に戦慄(ふるえ)が走る状態ですが、これは決して体が壊れてしまったわけではありません。
脳が「設定温度」を上げたサイン
私たちの脳には、体温を調節する司令塔である「視床下部」があります。
ウイルスや細菌が体内に侵入すると、視床下部はこの侵入者を熱で退治するために、体温のセットポイント(設定温度)を一時的に高く設定します。
例えば、平熱が36.5度の状態で、脳が「ウイルスを殺すために39度まで上げろ!」と指令を出したとします。
すると、今の36.5度の体は、脳から見れば「寒すぎる」状態になります。
そこで脳は筋肉に指令を出し、小刻みに震えさせることで熱を作り出そうとします。
これがシバリング(ふるえ熱産生)と呼ばれる現象であり、悪寒戦慄の正体です。
つまり、悪寒戦慄とシバリングは、脳の指令によって筋肉が熱を作っている、いわば「発熱のための準備運動」なのです。

✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 震えは「脳へのダメージ」のサインではないので、安心してください。
なぜなら、多くの患者さんが「こんなに震えて脳がおかしくなりませんか?」と心配されますが、41度以下であれば脳への直接的な影響はありません。この震えは、体が正常に機能している証拠です。今は体が熱を作り切るのを、温かくして待ってあげましょう。
【1秒で判断】「温める」から「冷やす」へ切り替えるタイミングは「手足の温度」
「温めるべきか、冷やすべきか」。
これは発熱時のケアで最も迷うポイントですが、体温計の数字を見る必要はありません。
答えはあなたの手足の温度が教えてくれます。
手足が冷たい=「保温期」(まだ温める!)
悪寒戦慄が起きている間、体は熱を逃がさないように血管をギュッと収縮させます。
そのため、体の中心は熱くても、手足の先は氷のように冷たくなっています。
この手足が冷たい時期(保温期)は、まだ熱が上がりきっていません。
ここで薄着にしたり冷やしたりすると、体は「もっと熱を作らなきゃ!」とさらに激しく震え、体力を消耗してしまいます。
- やるべきこと: 電気毛布、湯たんぽ、厚着、布団を重ねる。
- ゴール: 「暑い」と感じるまで、徹底的に加温する。
手足が温かい=「放熱期」(ここで冷やす!)
震えが止まり、顔が赤くなり、汗ばんでくる。そして触ってみると手足がポカポカと温かくなっている。
これが、熱が上がりきった合図(極期〜放熱期)です。血管が拡張し、今度は熱を逃がそうとしています。
この手足が温かい時期(放熱期)に入って初めて、冷却(クーリング)を開始します。
- やるべきこと: 布団を減らす、薄着になる、氷枕で頭や脇の下を冷やす。
- ゴール: 気持ちいいと感じる範囲で熱を逃がし、体力を温存する。
手足の温度は、ケアの切り替え(保温から冷却へ)を判断する、最もシンプルで確実なスイッチなのです。
📊 比較表
表タイトル: 手足の温度で判断!発熱ケアの切り替えチェックリスト
| チェック項目 | 手足が冷たい時(保温期) | 手足が温かい時(放熱期) |
|---|---|---|
| 体の状態 | ガタガタ震える、寒気がする | 顔が赤い、暑い、汗ばむ |
| 血管の状態 | 収縮(熱を逃がさない) | 拡張(熱を逃がす) |
| 正解ケア | 徹底的に温める | 涼しくして冷やす |
| 具体策 | 電気毛布、湯たんぽ、厚着 | 氷枕、薄着、室温を下げる |
| NG行動 | 薄着にする、おでこを冷やす | 厚着のまま汗をかかせる |
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「暑い!」と本人が布団を蹴飛ばすまでは、温め続けてOKです。
なぜなら、現場でも、熱が上がりきっていないのに「熱があるから」と氷枕をしてしまい、震えが止まらない患者さんをよく見かけます。ご家族がケアする場合も、体温計の数字より「手足の冷たさ」と「本人の寒がり具合」を優先してください。
救急車を呼ぶべき?「悪寒戦慄」の後に注意すべき危険なサインと受診の目安
悪寒戦慄は体の防御反応ですが、同時に「ただの風邪ではない」可能性が高いサインでもあります。
特に、悪寒戦慄は菌血症(細菌が血液に入り込む状態)や腎盂腎炎(じんうじんえん)など、抗生物質が必要な感染症の初期症状であることが多いのです。
ここでは、救急車を呼ぶべき緊急事態と、翌朝まで待って受診すべきケースを明確に区別します。
即119番(救急車)を呼ぶべきサイン
以下の症状が一つでもあれば、迷わず救急車を呼んでください。
命に関わる可能性があります。
- 意識がおかしい: 呼びかけに反応が鈍い、つじつまが合わないことを言う。
- 呼吸が苦しい: 肩で息をしている、ゼーゼーしている、顔色が悪い。
- 水分が全く取れない: 半日以上おしっこが出ていない(脱水の危険)。
- 激しい頭痛や嘔吐: 今までにない激痛、噴水のような嘔吐。
翌朝必ず受診すべきケース
意識がはっきりしていて、水分も取れているなら、夜間は家で様子を見ても大丈夫です。
ただし、「悪寒戦慄があった」という事実は、翌朝必ず医師に伝えてください。
- 震えが止まった後も39度以上の高熱が続く。
- 腰や背中が痛む(腎盂腎炎の可能性)。
- 排尿時に痛みがある。
突然ガタガタ震えて寒気を訴える(悪寒戦慄)場合、その後重篤な感染症に罹患している可能性があるため注意が必要です。
出典: 救急受診ガイド 2014年版 – 消防庁(日本救急医学会監修)
よくある間違い:解熱剤やお風呂の正しいタイミング
震えと高熱に直面すると、少しでも楽になりたくて薬やお風呂に頼りたくなりますが、タイミングを間違えると逆効果になります。
Q. 解熱剤はいつ飲めばいいですか?
A. 震えが止まり、熱が上がりきってから飲みましょう。
震えている最中(保温期)は、体が必死に熱を上げようとしている時です。ここで解熱剤を使うと、体の働きを邪魔してしまい、かえって震えが長引くことがあります。「暑い」と感じるまで熱が上がりきり、それでも辛くて眠れない時が使いどきです。
Q. お風呂に入ってもいいですか?
A. 悪寒がある時は絶対にNGです。
お風呂は想像以上に体力を消耗します。特に悪寒がある時は、脱衣所の寒さや湯冷めが震えを悪化させる原因になります。汗をかいて気持ち悪い場合は、熱が下がってから温かいタオルで体を拭く程度に留めましょう。
まとめ:震えは「味方」。温めて乗り切り、翌朝は医師に「震えたこと」を伝えよう
突然の激しい震えは怖いものですが、それはあなたの体がウイルスと戦うために「戦闘モード」に入った証拠であり、頼もしい味方です。
- 震えている間(手足が冷たい間)は、電気毛布や厚着で徹底的に温める。
- 震えが止まり、手足が温かくなったら、薄着や氷枕でクーリングに切り替える。
- 意識障害や呼吸困難がなければ、家で安静にし、翌朝必ず受診する。
この3ステップを守れば、あなたは最善の初動をとれています。
今は無理に熱を下げようとせず、温かくして体を休めてください。
そして明日の受診時、医師に「何時ごろ、どれくらいの時間、ガタガタ震える悪寒があったか」をメモして渡してください。
それが、早期回復への一番の近道になります。
[参考文献リスト]