「メジャーデビュー」はもうゴールじゃない。SNS時代のアーティストが知るべき、契約よりも大切な「原盤権」の話

南 カイト

南 カイト(みなみ かいと)

音楽ビジネス・アドバイザー / 元インディーズレーベル代表

10年間レーベル運営に携わった後、独立。「アーティストの権利を守る」をモットーに、契約書チェックやDIY活動のコンサルティングを行う。業界の裏側を知り尽くした元・中の人として、若き才能が搾取されないよう、本音で「武器」を授けるメンター。

「TikTokで曲がバズって、レーベルからDMが来た! これってチャンス?」

そんな風に胸を躍らせているあなたへ。まずは、おめでとうございます。

あなたの音楽が多くの人に届いた証拠です。

でも、ちょっと待ってください。

その契約書にサインする前に、どうしても伝えておきたいことがあります。

「メジャーデビューおめでとう!」

その言葉の裏で、どれだけのアーティストが涙を飲んできたか、私は知っています。

契約書の一行を見落としただけで、あなたが作った曲は、あなたのものではなくなります。

現代の音楽活動において最も重要なのは、「メジャーかインディーズか」ではありません。

「原盤権を誰が持っているか」です。

今日は、元レーベル運営者が、業界のタブーに触れつつ、あなたが損をしないための「生存戦略」を伝授します。

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まだ「メジャー=成功」と思ってる?インディーズとの境界線は消滅した

まず、古い価値観をアップデートしましょう。

かつて、音楽活動には「メジャーレーベル」が不可欠でした。

なぜなら、CDを全国のショップに流通させ、テレビやラジオで宣伝するには、莫大な資金とコネクションが必要だったからです。

しかし、今はどうでしょうか?

TuneCore Japanなどのサービスを使えば、個人でもSpotifyやApple Musicで世界中に曲を配信できます。

TikTokやYouTubeを使えば、広告費ゼロで何百万人に届けることも可能です。

つまり、「流通の壁」はもう存在しません。

現代におけるメジャーとインディーズの違いは、単なる「予算規模」と「関わる大人の数」の違いに過ぎません。

インディーズは「アマチュア」ではなく、「独立系(Independent)」という、自由でポジティブな選択肢なのです。

【収益比較】レーベル契約 vs 完全個人(DIY)。1再生あたりの手取りは10倍違う

では、具体的な数字を見てみましょう。ここが一番重要なポイントです。

あなたが作った曲がストリーミングで再生されたとき、その収益は誰のポケットに入るのでしょうか?

📊 比較表
レーベル契約とDIY活動の収益分配モデル(アーティスト取り分)

項目レーベル契約(メジャー/インディーズ)完全個人(DIY / TuneCore等)
原盤権の所在レーベル(会社)あなた(アーティスト)
収益の分配アーティスト印税:1%〜3%プラットフォーム手数料除く:約60%〜
1再生あたりの手取り
(1再生=1円と仮定)
0.01円〜0.03円0.6円〜0.7円
自由度会社の意向に従う必要あり全て自分で決定できる

衝撃的かもしれませんが、これが現実です。

レーベルと契約すると、多くの場合「原盤権」を会社に譲渡することになります。

その結果、アーティストに入ってくる印税は、売上のほんの数パーセント。

1再生あたり0.1円にも満たないことがほとんどです。

一方、個人で活動(DIY)し、原盤権を自分で持っていれば、収益の大部分があなたのものになります。

その差は、実に10倍以上。

「レーベルに入れば給料がもらえる」と思うかもしれませんが、今の時代、固定給が出る契約は稀です。

売れなければ収入はゼロ。

それなら、売れた分だけダイレクトに入ってくるDIYの方が、よほど健全だと思いませんか?

契約書の罠。「原盤権」を渡すと、あなたの曲はあなたのものでなくなる

「でも、契約すればサポートしてもらえるし…」

そう思う気持ちも分かります。しかし、契約書には恐ろしいリスクが潜んでいます。

それが「原盤権譲渡」の条項です。

原盤権とは、簡単に言えば「録音された音源のオーナー権利」のこと。

もし契約書に「本契約に基づく原盤権は、甲(レーベル)に帰属する」という一文があったら、ペンを置いてください。

これにサインすると、どうなるか?

  • 将来、そのレーベルを辞めたとしても、その曲の権利はレーベルに残ります。
  • 自分の曲なのに、ライブで勝手にCDを売ったり、YouTubeにアップしたりできなくなります。
  • 「この曲をサブスク解禁したい!」と思っても、レーベルが「NO」と言えばそれまでです。

あなたが心血を注いで作った曲が、他人の所有物になってしまう。これが「原盤権譲渡」の正体です。

それでもレーベルが必要な時。契約すべきなのは「どんなフェーズ」か?

ここまでレーベル契約のリスクを話してきましたが、もちろん全否定するわけではありません。

レーベルの力がどうしても必要なタイミングがあります。

それは、「個人では回せない規模になった時」です。

  • テレビの音楽番組に出演したい。
  • ドラマやアニメの主題歌タイアップを取りたい。
  • ドームやアリーナクラスのツアーを回りたい。

こうした大規模な展開には、個人の力だけでは限界があります。

数千万円単位のプロモーション費や、業界の政治力が必要になるからです。

逆に言えば、そこまでの規模を目指していない段階、あるいはSNSでファンと直接つながれている段階なら、焦って契約する必要はありません。

もし契約するとしても、「原盤権はアーティストが持ち、レーベルには業務委託(エージェント契約)する」という形を交渉することも可能です。

まとめ:自分の音楽の「オーナー」であり続けよう

音楽ビジネスの主導権は、今やレーベルからアーティスト個人に移っています。

「レーベルに入らなきゃ売れない」という呪縛から、自分を解放してください。

知識は、あなたの音楽を守る最強の盾になります。

安易に契約せず、まずは自分でやってみる(DIY)。

その経験が、将来より良い条件でパートナーと組むための力になります。

賢く選び、自由に奏でよう。あなたの音楽のオーナーは、あなた自身なのですから。


参考文献

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