
この記事の著者:田口 巽(たぐち たつみ)
一級建築士 / 福祉住環境コーディネーター2級
築古戸建ての玄関リフォーム実績500件以上。「壊さないリフォーム」を提唱し、コストを抑えつつ意匠性を高める提案に定評がある。施主の利益(コスト・将来性)を最優先に考えるメンター。
「玄関のフローリングが傷んできたし、そろそろ親と同居するから段差も解消したいな…」
そう思ってリフォーム業者に見積もりを頼んだら、「框(かまち)の交換工事で数十万円かかります」と言われて驚いていませんか?
しかも提案されたのは、今の立派な框を壊して、ありきたりな既製品に変えるだけのプラン。
「本当にこれでいいのか? もっと安くて、見た目も良くて、将来も安心な方法はないのか?」
そんなモヤモヤを抱えているあなたに、朗報です。
実は、玄関を「壊さず」に新品同様にする方法があります。それが「リフォーム框」です。
本記事では、500件以上の玄関改修を手掛けた私が、業者の都合ではなく、あなたの家族の未来を守るための「賢い框の選び方」を伝授します。
コストを抑えつつ、バリアフリーまで見据えた「玄関の正解」を一緒に見つけましょう。
なぜ「普通の框交換」は損なのか?玄関リフォームの落とし穴
「框が古くなったから交換しましょう」
リフォームの現場でよく聞く言葉ですが、私はこの提案を聞くたびに「もったいない!」と心の中で叫んでしまいます。
なぜなら、既存の上がり框を撤去して交換する工事は、施主であるあなたにとってリスクとコストが大きすぎるからです。
壊すリスクと見えないコスト
まず知っておいてほしいのは、框という部材が家の構造といかに密接に関わっているかということです。
框は単に床に乗っているだけではありません。
壁や床のフローリング、そして玄関のタイルと複雑に絡み合って固定されています。
これを「交換」するために外そうとすると、どうなるでしょうか?
- 周辺破壊の連鎖: 框を外すために、周囲の壁や床の一部を壊さなければなりません。
- タイル破損のリスク: 框に接している玄関タイルが割れてしまう可能性が高く、その補修費用も追加で発生します。
- 廃材処分費: 壊した大量の廃材を処分するのにも、当然コストがかかります。
つまり、「框の交換」は、框そのものの値段以上に、「壊す手間」と「直す手間」に莫大な費用がかかるのです。
なぜ業者は「交換」を勧めるのか?
では、なぜ業者はそんな損な提案をするのでしょうか? 理由は大きく2つあります。
一つは、単純に工事単価を上げたいから。解体工事や補修工事が増えれば、それだけ売上は上がります。
もう一つは、「リフォーム框」の施工技術がない、または面倒くさいからです。
後述する「リフォーム框」は、既存の框に合わせて現場で精密にカットする技術が必要ですが、丸ごと交換なら既製品をポンと置くだけ(解体は大変ですが、大工仕事としては単純)というケースもあるのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「框を交換しないとダメ」と言われたら、その根拠を必ず聞いてください。シロアリ被害でボロボロになっている場合を除き、9割のケースは交換不要です。
なぜなら、多くの業者は「壊さない選択肢」があることを施主に教えず、自社の利益になる大規模工事を優先しがちだからです。この知識があるだけで、見積もり額は大きく変わります。
工期1日・費用半額!「リフォーム框(上貼り)」という賢い選択
では、既存の框を壊さずにどうやって綺麗にするのか? その答えが「リフォーム框(上貼り)」です。
リフォーム框とは?
リフォーム框とは、既存の上がり框の上から被せる(カバーする)ための、L字型の化粧部材のことです。
厚さはわずか3mm〜6mm程度。これを専用の接着剤と釘で既存の框に貼り付けるだけで、まるで新品の框に取り替えたような仕上がりになります。
この工法の最大のメリットは、「既存の上がり框」をそのまま下地として利用するため、解体工事が一切不要だということです。
圧倒的なコストパフォーマンスと時短効果
既存を「壊す」工事と「被せる」工事。その差は歴然です。
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「被せると安っぽくなる?」という誤解
よく聞かれるのが、「上から貼ると厚ぼったくなって、安っぽく見えませんか?」という質問です。
安心してください。最近のリフォーム框は、大手建材メーカー(DAIKENやLIXILなど)が非常に精巧に作っており、プロでもパッと見では「被せ」だと気づかないレベルです。
既存の框と新しい框の継ぎ目には専用の「見切り材」が入るため、違和感なく納まります。
むしろ、最新のシート技術により、傷や汚れに強い高機能な玄関に生まれ変わります。
「低ければ良い」は間違い。老後も安心な「高さ」と「式台」の黄金比
さて、工法が決まったところで、次は「高さ」の問題です。
親御さんとの同居を機に、「バリアフリーにするために段差を低くしたい」と考えている方も多いでしょう。
しかし、ここにも大きな落とし穴があります。
「18cmの壁」とバリアフリーの誤解
日本の戸建て住宅における上がり框の高さは、一般的に18cm前後が標準とされています。
これは建築基準法などで決まっているわけではありませんが、昔からの慣習と、床下の湿気対策(通気確保)のために必要な高さでした。
しかし、この18cmという高さは、バリアフリーの観点からは非常に中途半端です。
- 高齢者にとって: 18cmの段差を上がるのは、足腰への負担が大きく、転倒リスクがあります。
- 座って靴を履くには: 18cmは低すぎて、一度座ると立ち上がるのが大変です(低い椅子から立つのが辛いのと同じ原理です)。
つまり、単に段差を低くすれば良いというわけではないのです。
低すぎると、今度は「座って靴を履く」という動作ができなくなってしまいます。
最適解は「式台(しきだい)」の活用
そこで私が強くおすすめするのが、「式台」というエンティティ(部材)の活用です。
式台とは、土間と上がり框の間に設置する、もう一段の板のことです。
式台を設置することで、18cmの段差を「9cm + 9cm」の2段に分割できます。
これなら、足が上がりにくい高齢者でも無理なく上がれます。
さらに重要なのが、式台は「靴を履くためのベンチ」としても機能するという点です。
式台に腰掛ければ、土間に置いた靴に手が届きやすく、立ち上がる際も框に手をついて体を支えられます。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 框を無理に低くする工事はNG。今の高さ(18cm前後)を活かし、「式台」と「手すり」をセットで設置するのが正解です。
なぜなら、これが最も工事費を抑えられ、かつ「歩行」と「着脱」の両方の動作を楽にする唯一の方法だからです。私の実家でもこの方法を採用し、母から「魔法のように楽になった」と感謝されました。
失敗しない「框」の素材・形状選び【メーカー比較あり】
最後に、具体的な製品選びのポイントをお伝えします。
カタログを見ると色々な形状や素材があって迷うと思いますが、プロの視点で「選ぶべきもの」と「避けるべきもの」を整理しました。
形状:「斜め框」は掃除の敵
おしゃれな玄関事例としてよく見る「斜め框」や「R框(曲線)」。
デザイン性は抜群ですが、メンテナンスの観点からはおすすめしません。
斜め框は、玄関の隅に鋭角なスペースを作ってしまい、そこに埃が溜まりやすくなります。
掃除機のヘッドも入らず、ルンバも掃除しきれません。
長く住む家だからこそ、奇抜な形状よりも、掃除がしやすく飽きのこない「直線」を選ぶのが賢明です。
素材とメーカー比較
リフォーム框の素材は主に3種類あります。予算と耐久性のバランスで選びましょう。
📊 比較表
主要メーカーのリフォーム框製品比較(価格帯・特徴)
| メーカー | 製品シリーズ | 素材 | 特徴 | おすすめ度 |
|---|---|---|---|---|
| DAIKEN | ハピア リモデル框 | 樹脂シート | 色柄のバリエーションが豊富で、安価。傷にも強い。 | ★★★ |
| LIXIL | リフォーム框 | 樹脂シート/単板 | 同社の床材「ラシッサ」と完全コーディネートが可能。 | ★★★ |
| Panasonic | USUI-TA(ウスイータ)框 | 樹脂シート | 厚さ1.5mmの超薄型床材とセットで施工可能。段差がほぼ出ない。 | ★★☆ |
| 永大産業 | 銘樹・ロイヤル | 突き板(天然木) | 天然木の質感が美しいが、価格は高め。水濡れに注意が必要。 | ★★☆ |
私のおすすめは、DAIKENやLIXILの「樹脂シート(オレフィンシート)」タイプです。
「樹脂」と聞くと安っぽく感じるかもしれませんが、近年の印刷技術は凄まじく、本物の木と見分けがつかないレベルです。
しかも水や擦り傷に強く、ワックス掛けも不要。玄関という過酷な環境には最適です。
よくある質問(FAQ)
リフォーム框を検討する際、施主様からよく頂く質問をまとめました。
Q: 玄関ドアの下枠と干渉しませんか?
A: 多くの場合は大丈夫ですが、事前のチェックが必須です。
リフォーム框は既存の框の上に被せるため、数ミリ高くなります。玄関ドアの下枠(沓摺り)との段差が少ない場合、框がドアに当たってしまう可能性があります。その場合は、框の裏側を削って調整するか、ドアの開閉範囲を避けて施工するなどの工夫が必要です。現調時に必ずプロに確認してもらいましょう。
Q: シロアリが心配です。被せてしまって大丈夫?
A: 被せる前に「防蟻処理」を行うのが鉄則です。
既存の框がシロアリに食われている場合、そのまま被せるのは厳禁です。必ず既存框の状態を確認し、必要であれば薬剤散布などの防蟻処理を行ってからリフォーム框を施工します。見積もりに「下地調整・防蟻処理」が含まれているか、業者に確認してください。
「家の顔」を未来へ繋ぐために
玄関は「家の顔」であり、家族が毎日必ず通る場所です。
だからこそ、業者の言いなりになって「ただ新しくするだけ」の工事で終わらせてはいけません。
既存を壊さず、コストを抑えて美しく仕上げる「リフォーム框」。
そして、家族の老後の動作を助ける「式台」の活用。
この2つの知識があれば、あなたはもう業者と対等に話せます。
まずはリフォーム業者に、こう聞いてみてください。
「リフォーム框での施工実績はありますか? そして、式台あり・なしの2パターンで見積もりをお願いできますか?」
この一言が、あなたの家の玄関を、未来まで愛せる素敵な場所に変える第一歩になるはずです。