高齢の親を持つ方にとって、「介護サービスをどう使えばいいのか」「どんな手続きが必要なのか」はとても分かりにくいテーマです。
しかし、事前に知っておくだけで、介護の負担は大きく減り、心の余裕が生まれます。
この記事では、
・介護保険がどんな時に役立つのか
・どんな介護保険サービスが利用できるのか
・要介護認定の受け方
・介護保険を使える人の条件
などを、初めての方にも分かりやすく解説します。
介護保険は、どんな時に役に立つの?
自分のことが“自分でできなくなった”ときに助けてくれる制度
「高齢になっても元気に暮らせるなら問題ない」と多くの人が思いますが、実際には次のような場面が増えていきます。
・トイレの移動がつらい
・食事の準備ができない
・お風呂に入るのが危ない
・物忘れが進んで生活が回らない
家族がすべて手助けできれば理想ですが、24時間見守り続けるのは現実的にとても難しいものです。
そこで役に立つのが介護保険制度です。
介護保険を利用すると、介護サービスの費用が1〜3割の自己負担で受けられ、経済的な負担も軽くなります。
介護保険を使うには「要介護認定」が必要
介護保険を使うためには、行政が行う要介護認定を受けることが必須です。
要介護認定では、
・どの程度の介護が必要か
・生活の自立度はどれくらいか
が評価され、「要支援1・2」「要介護1〜5」に分類されます。
この区分に認定されることで、必要に応じた介護サービスを利用できるようになります。
どんな介護サービスがあるの?
介護サービスは、大きく分けて自宅で受けるものと施設で受けるものがあります。
さらに、自宅での介護を支えるための用具レンタルや住宅改修の補助なども用意されています。
自宅で受ける「訪問サービス」
●訪問介護(ホームヘルプ)
ヘルパーが自宅に訪問し、
・排泄、おむつ交換
・体拭きや自宅の風呂での入浴介助
・食事介助
・掃除、洗濯、買い物、料理などの生活援助
といったサポートを行います。
「住み慣れた自宅で暮らしたい」という希望を支える、もっとも身近なサービスです。
●訪問看護
看護師などが自宅を訪問し、病気やケガ、障がいに応じた看護を行います。
・血圧や体温などの健康チェック
・服薬管理
・医師の指示に基づく医療的ケア
など、医療と生活の橋渡しをしてくれる心強いサービスです。
●訪問リハビリテーション
理学療法士や作業療法士などが自宅に来て、
・歩行訓練
・起き上がりや立ち上がりの練習
・食事やトイレ、着替えなどの動作訓練
といったリハビリを行います。
「できること」を増やしたり維持したりすることを目標にしたサービスです。
日中に通う「通所サービス」
●通所介護(デイサービス)
自宅まで送迎があり、日中を施設で過ごすサービスです。
・食事の提供
・入浴介助
・機能訓練(体操・運動)
・レクリエーション(ゲーム・手作業・歌など)
が行われ、生活全体をサポートしてくれます。
ご本人にとっては「楽しみの場」、家族にとっては「介護から少し離れて休める時間」にもなります。
●通所リハビリテーション(デイケア)
デイサービスと同じく送迎付きで通い、
・専門職によるリハビリテーション
・医師や看護師による健康管理
などを中心に行うサービスです。
主目的はリハビリテーションで、「もう少し歩けるようになりたい」「体力を維持したい」といったニーズに合っています。
短期で泊まる「短期入所サービス(ショートステイ)」
自宅まで迎えに来てもらい、数日〜1週間程度、施設に短期で入所できるサービスです。
・家族の旅行や冠婚葬祭のとき
・介護者が少し休みたいとき
・在宅介護の限界に近づいたときの調整
などに活用できます。
最終日には自宅まで送ってもらえるため、利用しやすいサービスです。
長期で暮らす「施設サービス」
特別養護老人ホームなどの介護施設に、長期で入所できるサービスです。
施設では、
・食事や入浴などの日常生活の介助
・リハビリテーション
・健康管理
などが24時間体制で行われます。
ただし、特別養護老人ホームは人気が高く空きが少ないため、申し込みをしても「いつ入所できるか分からない」というケースもあります。
自宅介護を支えるその他のサービス
●福祉用具レンタル
・介護ベッド
・車椅子
・歩行器
・歩行補助つえ など
必要な福祉用具をレンタルして、自宅での生活を安全・快適に整えることができます。
●特定福祉用具の購入補助
レンタルではなく購入が必要な福祉用具について、費用の一部が補助されます。
・ポータブルトイレ
・浴槽用手すり
・入浴用いす など
自宅のお風呂やトイレを安心して使えるようにするための大切な支援です。
●住宅改修の補助
自宅の段差やトイレ、出入口などの改修費用の9割が補助される制度です。
・手すりの取付け
・段差の解消
・引き戸への扉の取替え
・和式トイレから洋式トイレへの変更 など
転倒予防や移動のしやすさを向上させることで、在宅生活を続けやすくなります。
とぶさん家の場合(体験談)
私(とぶさん)の父の場合、
・まだ要支援2で自分でほとんどのことができていた頃は、歩行訓練を目的として週2回の通所介護(デイサービス)を利用していました。
しかし、身体の動きが悪くなり要介護4になると、自宅で24時間見守りながら介護することに限界を感じ、ショートステイを長期間で利用するようになりました。
現在は、「1ヶ月ショートステイ+数日自宅介護」というパターンでなんとか続けています。
特別養護老人ホームなど長期入所が可能な施設には空きがなく、申し込みをしてもいつ入所できるか分からないのが現状です。
こうした状況も含めて、介護サービスの選択肢を早めに知っておくことが大切だと感じています。
どんな人が介護保険を使えるの?
介護保険料を支払っている40歳以上の人が、条件に応じて介護保険を使うことができます。
ただし、年齢によって利用条件が異なります。
40〜64歳の場合(第2号被保険者)
40〜64歳の人は、特定の病気(16種類)が原因で介護が必要になった場合のみ、介護保険を利用できます。
代表的なものとして、
・末期がん
・関節リウマチ
・認知症
・パーキンソン病
・脳血管疾患(脳梗塞・脳出血など)
などがあります。
「加齢に伴う一般的な衰え」だけでは対象にならない点がポイントです。
65歳以上の場合(第1号被保険者)
65歳以上であれば、介護が必要になった原因を問わず、介護保険を利用できます。
・転倒や骨折
・認知症
・病気による身体機能の低下
・全体的な体力の衰え など
日常生活に支障が出てきた場合は、介護保険の対象となる可能性があります。
要介護認定と認められた人だけがサービスを利用できる
介護保険サービスを利用するためには、「介護や支援が必要な状態である」と公的に認められることが必要です。
そのために行われるのが要介護認定です。
要介護度の区分について
要介護度は、介護の必要性の程度に応じて以下のように分類されます。
・要支援1〜2(比較的自立しているが、支援が必要な状態)
・要介護1〜5(介護の必要性が高い状態)
介護の必要性が低い「要支援1」から、一番介護が必要とされる「要介護5」まで、
食事・着替え・トイレなど身の回りのことがどの程度自分でできるか、立ち上がりや歩行がどれくらい可能かなどをもとに判定されます。
要介護認定を受けるには?(手順)
要介護認定を受けるには、次のような流れで進みます。
1. 役所に電話して相談
お住まいの市区町村役所に電話をして、「介護保険担当(介護認定係)」につないでもらいましょう。
申請方法や必要な書類について教えてもらえます。
2. 要介護認定の申請
本人または家族が、役所の窓口や地域包括支援センターで申請を行います。
3. 認定調査(訪問調査)
後日、調査員が自宅または入院先の病院に来て、
・食事
・トイレ
・歩行
・着替え
・入浴
・認知機能 など
について、本人や家族から聞き取りを行います。
4. 審査・判定
認定調査の結果と、かかりつけ医が作成する「主治医意見書」をもとに、介護認定審査会で要介護度が判定されます。
5. 結果の通知
申請からおおむね1ヶ月程度で、要介護認定の結果が郵送で通知されます。
要支援1〜2、要介護1〜5のいずれかに認定されると、介護保険のサービスを利用できるようになります。
まとめ:介護サービスのことは「早めに知る」ほど心強い
親の介護が始まってから慌てて調べるよりも、少し余裕のある今のうちに介護サービスや介護保険のことを知っておくほうが、心にも体にも負担が少なくて済みます。
・介護保険はどんなときに使えるのか
・どのようなサービスがあるのか
・誰が対象になるのか
・要介護認定はどうやって受けるのか
こうした基本を知っておくだけでも、いざというときに「何から動けばいいのか」が分かり、介護のスタートがスムーズになります。
介護は、一人で抱え込むものではありません。
制度やサービス、専門職、家族や地域の力を借りながら、少しずつ向き合っていくものです。
「介護サービスを受けるにはどうすればいいの?」という疑問を持った今が、情報を集め始めるちょうどよいタイミングかもしれません。
まずは、お住まいの自治体や地域包括支援センターに、気軽に相談してみてくださいね。