「クロスビーはやめとけ」は本当か? 元開発エンジニアが語る、スペック表には載らない「真の価値」

一目惚れした車の名前を検索したら、サジェストに「やめとけ」の文字。

テンションが下がりますよね。「やっぱり燃費が悪いから?」「価格が高いから?」と、不安になる気持ちはよく分かります。

でも、元自動車メーカー開発エンジニアの私から言わせれば、それは最高の褒め言葉です。

なぜなら、今の時代にこれほど「効率」を無視して「楽しさ」にコストをかけた車は他にないからです。

カタログの燃費数値しか見ない人には、この車の価値は一生理解できないでしょう。

ネットで囁かれる悪評の正体と、エンジニアも唸るクロスビーの「真の価値」について、技術屋視点で解説します。


[著者情報]

この記事を書いた人:遠藤 克己(元自動車メーカー開発エンジニア)
大手メーカーで15年間、エンジンの開発に従事。コストダウンのためにCVTや3気筒を採用せざるを得ない苦渋を味わった経験から、「スペック表の燃費だけで車を語るな」を信条に、作り手の視点で車の本質的な価値を伝えている。

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なぜ燃費が悪いのか? それは「走りの楽しさ」にコストを全振りしたからだ

まず、最大の懸念点である「燃費」についてお話ししましょう。

クロスビーの実燃費は、街乗りで約14〜15km/L程度。

ライバルであるライズ(ハイブリッド)が20km/Lを超えることを考えると、確かに数値上は完敗です。

しかし、これは技術不足の結果ではありません。

「走りの楽しさ」を優先した確信犯的な設計の結果なのです。

昨今のコンパクトカーは、燃費効率を稼ぐために「3気筒エンジン」と「CVT(無段変速機)」の組み合わせが主流です。

しかし、クロスビーはあえて「1.0L直噴ターボ」「6AT(6速オートマチック)」を採用しました。

ここに、スズキのエンジニアの意地があります。

CVTは燃費には有利ですが、アクセルを踏んだ時にエンジン音だけが大きくなって加速が遅れる「ラバーバンド感」がどうしても拭えません。

対して6ATは、ギアが噛み合うダイレクトな加速感が味わえます。

アクセルを踏めば、踏んだ分だけグイグイ進む。

この気持ち良さは、数値には表れません。

さらに、1.0L直噴ターボエンジンは、1.5L自然吸気エンジン並みのトルク(150Nm)を、わずか1700回転から発揮します。

つまり、街中で一番使う速度域で、余裕のある力強い走りができるのです。

燃費が悪いのは、あなたが「運転を楽しむための代償」です。

ただの移動手段として割り切るならライズで十分ですが、ハンドルを握るたびにワクワクしたいなら、この燃費差は「安い投資」だと言えます。

「ハスラーのデカい版」ではない。普通車専用設計の「骨格」の違い

「見た目がハスラーに似ているから、中身も軽自動車の延長でしょ?」

そう思っているなら、大きな間違いです。

クロスビーは、スズキの次世代プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」を採用していますが、これは軽自動車用ではなく、ソリオやイグニスと同じ小型車専用の骨格です。

特に注目すべきは「トレッド幅(左右のタイヤの間隔)」です。

軽自動車枠に縛られないワイドボディのおかげで、トレッド幅が広く取られており、コーナリング時の安定性が段違いです。

高速道路での横風に対する強さや、直進安定性も、軽自動車ベースとは比較になりません。

ハスラーとクロスビーの安定性比較

また、静粛性に関しても、軽自動車とはコストのかけ方が違います。

遮音材や吸音材がふんだんに使われており、3気筒エンジン特有の振動やノイズも、バランサーシャフト等の対策で極限まで抑え込まれています。

ドアを閉めた瞬間の「バスッ」という重厚な音からも、その剛性の高さが分かるはずです。

ライバル車(ライズ)との比較。スペックで負けても「質感」で勝つ

では、強力なライバルであるトヨタ・ライズ(ダイハツ・ロッキー)と比べるとどうでしょうか。

エンジニア視点で公平に比較してみましょう。

項目ライズ (ハイブリッド)クロスビー (MZ)判定
燃費約28.0km/L (WLTC)約18.2km/L (WLTC)ライズの圧勝
価格約230万円約220万円ほぼ互角
変速機CVT6ATクロスビーの質感勝ち
エンジン1.2L NA + モーター1.0L 直噴ターボクロスビーのトルク勝ち
静粛性一般的なコンパクトカークラスを超えた静けさクロスビーの勝ち

ライズは燃費も価格も優秀な、まさに「優等生」です。家計を預かる奥様を説得するなら、間違いなくライズでしょう。

しかし、クロスビーは「趣味人」のための車です。

「ふわふわする」という乗り心地の口コミも散見されますが、これはサスペンションのストローク(動く幅)をたっぷりとっている証拠です。

路面の凹凸をいなす能力が高く、長距離ドライブでも疲れにくいというメリットがあります。

ガチガチに固められたスポーティな足回りとは違う、「ゆったりとクルージングを楽しむ」ためのセッティングなのです。

オーナーの本音検証。「高い」と言われる価格の正当性

「軽自動車みたいな見た目なのに、200万円オーバーは高い」

そう感じるかもしれません。しかし、装備内容を細かく見ていくと、むしろ「割安」であることに気づきます。

上級グレードの「HYBRID MZ」には、以下の装備が標準でついてきます。

  • 撥水加工シート&防汚タイプラゲッジ: アウトドアで泥だらけになっても拭くだけでOK。
  • パドルシフト: 6ATをマニュアル感覚で操作できる、走り好きにはたまらない装備。
  • スズキ セーフティ サポート: デュアルカメラブレーキサポートなどの先進安全装備。
  • クルーズコントロール: 高速道路での運転を支援。

これらをオプションで追加していくと、他社ならもっと高額になります。

最初から「全部入り」で作られているからこそ、この価格なのです。

また、クロスビーはその唯一無二のデザインゆえに、中古車市場でも人気が落ちません。

リセールバリュー(売却時の価格)が安定していることも、長い目で見れば経済的なメリットと言えるでしょう。


まとめ:クロスビーは、効率よりも「愛着」を選ぶ人のための車だ

燃費で車を選ぶなら、ライズやヤリスクロスを買えばいい。それは間違いなく正解です。

でも、駐車場に停まった愛車を見て「ニヤリ」としたいなら、クロスビー一択です。

「やめとけ」という言葉は、裏を返せば「万人受けはしないけれど、刺さる人には深く刺さる」ということです。

効率一辺倒の世の中で、あえてメカニズムとデザインにコストをかけたこの車を選ぶ。

それは、エンジニアの私から見ても、とても「通」でカッコいい選択だと思います。

週末、ぜひディーラーで試乗してみてください。

アクセルを踏み込んだ瞬間、私の言った「6ATのダイレクト感」と「ターボの余裕」が分かるはずです。

あなたの感性を信じて、最高の相棒を選んでください。


[参考文献リスト]

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