
この記事を書いた人:佐藤 衛
遠距離介護アドバイザー / 社会福祉士(元・地域包括支援センター職員)
地域包括支援センターで10年間勤務し、3,000件以上の相談に対応。現場の多忙さも限界も知る「元・中の人」として、相談者が「どう伝えれば職員が動いてくれるか」を指南する戦略的パートナー。
久しぶりに帰省した実家。玄関を開けた瞬間、以前はあんなにきれい好きだった母の家が散らかっていることに気づき、胸がざわついた経験はありませんか?
冷蔵庫を開ければ賞味期限切れの食品が詰め込まれ、「これ、いつの?」と聞いても曖昧な返事しか返ってこない。
東京に戻る新幹線の中で、「このままではマズい気がする。
でも、仕事もあるしすぐには帰れない…」と、得体の知れない不安に押しつぶされそうになっているかもしれません。
役所のホームページを見ても、縦割りの窓口ばかりでどこに電話すればいいか分からない。
そんな時、あなたが最初に頼るべき場所は「地域包括支援センター」です。
「まだ介護認定も受けていないのに、電話したら迷惑じゃないか」。そう思って相談をためらう方が本当に多いんです。
でも、元職員として断言します。
ボヤ騒ぎのうちに電話してください。
大火事になってからでは、私たちも打てる手が限られてしまいます。
この記事では、元職員の私が、遠距離からでも親を守るための「賢いセンター活用術」と、門前払いされないための「魔法の相談スクリプト」を伝授します。
なぜ「地域包括支援センター」なのか?遠距離介護の司令塔としての役割
まず、なぜ役所の窓口や民間のケアマネジャーではなく、地域包括支援センターに連絡すべきなのでしょうか。
その理由は、センターが持つ「よろず相談所」としての特殊な立ち位置にあります。
地域包括支援センターは、高齢者の暮らしを支えるために、医療・介護・福祉・行政をつなぐハブ(結節点)として機能しています。
多くの人が誤解していますが、地域包括支援センターと要介護認定は、利用の前提条件ではありません。
つまり、「介護認定を受けていない元気な高齢者」であっても、将来の不安や生活の困りごとがあれば相談できるのです。
役所の高齢福祉課はあくまで「制度の手続き」をする場所ですが、センターは「困りごとの整理」をする場所です。
虐待の疑い、近所トラブル、消費者被害、そして「親の様子がなんとなくおかしい」という漠然とした不安まで、あらゆる相談の「最初の入り口」となります。
遠距離介護において、現地の事情に精通し、いざとなれば実家に駆けつけてくれるセンターは、まさに「現地の司令塔」と呼ぶべき存在です。

【実践編】門前払いされない!担当センターの探し方と「魔法の相談スクリプト」
ここからは、実際にあなたがアクションを起こすための具体的な手順をお伝えします。
センター職員は常に多忙です。
そのため、準備なしに電話をかけると、要領を得ずに「また様子を見てください」と後回しにされてしまうリスクがあります。
確実に動いてもらうために、以下のステップで進めてください。
ステップ1:担当センターを「親の住所」で探す
これが最大の落とし穴です。地域包括支援センターの担当エリアは、相談者(あなた)の住所ではなく、「親の住所」で決まります。
あなたの自宅近くのセンターに相談しても、「管轄外です」と断られてしまいます。
必ず「〇〇市(親の住所) 地域包括支援センター」で検索し、実家の町名を担当するセンターの電話番号を特定してください。
ステップ2:電話前の「状況整理メモ」を作る
電話をかける前に、親の状況を整理したメモを手元に用意しましょう。
職員が知りたいのは「感情」よりも「事実」です。
以下のチェックリストを埋めてから受話器を取ってください。
📊 比較表(チェックリスト)
表タイトル: 電話前に埋めるだけ!「親の状況整理シート」
| 項目 | チェックポイント(具体的にメモする内容) |
|---|---|
| 基本情報 | 親の氏名、年齢、住所、独居かどうか |
| 身体状況 | 自力で歩けるか? 食事はとれているか? 持病や服薬状況は? |
| 認知症状 | 物忘れはあるか? 同じ話を繰り返すか? 季節に合った服を着ているか? |
| 生活環境 | 部屋は散らかっていないか? 冷蔵庫の中身は? ゴミ出しはできているか? |
| キーパーソン | あなた(相談者)の連絡先、実家へ帰れる頻度 |
ステップ3:魔法の相談スクリプト(台本)
準備ができたら電話をかけます。以下のスクリプトを参考に、あなたの切実さと「プロの助けが必要であること」を伝えてください。
📞 相談スクリプト例
「東京に住んでいる佐藤と申します。〇〇町に一人で住む78歳の母のことで相談があり、お電話しました。
実は先日帰省した際、部屋がゴミで溢れており、冷蔵庫の中も賞味期限切ればかりで、生活が成り立っていない様子でした。
私は遠方に住んでいて頻繁には帰れないため、 母の安全が心配でご相談しました。まだ介護認定は受けていないのですが、一度、専門の方にご自宅の様子を見ていただくことは可能でしょうか?」
ポイントは、「遠距離で支援できないこと」と「具体的な異変(ゴミ、食事)」を伝え、「訪問(実態把握)」を依頼することです。
これにより、職員は事態の緊急性を認識しやすくなります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 電話口では「介護認定を受けさせたい」といきなり言うのではなく、「今の生活が心配なので、様子を見てほしい」と伝えましょう。
なぜなら、介護認定はあくまで手段の一つであり、目的は「親の安全な生活」だからです。まずは職員に実態を見てもらうことで、介護申請が必要か、それとも別の見守りサービスが良いか、プロの視点で判断してもらえます。
「親が支援を拒否」しても大丈夫。プロが使う「介入の裏技」とは
「センターに相談したいけど、親にバレたら怒られるかも…」「『まだボケてない!』と門前払いされたらどうしよう」。そんな不安をお持ちの方も多いですよね。
私も現役時代、支援を拒否する高齢者の方と何度も向き合ってきました。
実は、私たち職員はそういった「拒否への対応」にも慣れています。
もし親御さんが介護の相談を嫌がる場合は、電話でその旨を正直に伝えてください。
そうすれば、私たちは「介護の相談」としてではなく、別の名目で訪問するテクニックを使います。
よく使うのは、「地域の高齢者実態調査」や「健康長寿のアンケート」、あるいは「介護予防教室のご案内」という名目です。
「こんにちは、地域包括支援センターです。今日はこの地域の75歳以上の方皆様に、健康についてお伺いして回っているんです」
このように訪問すれば、親御さんのプライドを傷つけることなく、玄関先で会話をしながら、「部屋の様子」や「会話の噛み合い方」をさりげなくチェック(実態把握)することができます。
私たちはプロです。親御さんとあなたの関係が悪くならないよう、細心の注意を払って介入しますので、安心して「親には内緒で様子を見てほしい」と相談してください。
よくある質問:費用や秘密厳守について
最後に、相談する際によくある疑問にお答えします。
Q. 相談にお金はかかりますか?
A. 一切かかりません。
地域包括支援センターは自治体から委託された公的機関ですので、相談や訪問は無料です。
Q. 親や近所に知られずに相談できますか?
A. 可能です。
職員には守秘義務があります。あなたが相談したこと自体を親御さんに伏せることもできますので、電話の際にその旨を伝えてください。
Q. 土日や夜間でも相談できますか?
A. 自治体によりますが、緊急対応は可能です。
多くのセンターは平日日中の営業ですが、24時間対応の電話窓口を設けている自治体もあります。まずは平日に電話をして、緊急時の連絡先を確認しておくと安心です。
まとめ:その一本の電話が、親とあなたの生活を守る
地域包括支援センターは、遠く離れて暮らすあなたに代わって、親御さんの生活を見守る「現地の目」になってくれます。
「まだ早いかも」と遠慮する必要はありません。
むしろ、問題が深刻化する前の「今」こそが、相談するベストなタイミングです。
今日、まずはスマホを取り出し、「〇〇市(親の住所) 地域包括支援センター」と検索してみてください。
そして、その電話番号を電話帳に登録するだけでも、大きな一歩です。
その一本の電話が、半年後のあなたと親御さんの笑顔を守ることにつながります。
完璧を目指さなくて大丈夫です。まずはプロとつながることから始めましょう。
[参考文献リスト]
- 地域包括支援センターについて – 厚生労働省
- 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」 – 厚生労働省