
この記事を書いた人:現場監督・タカシ
一級建築施工管理技士 / リフォームアドバイザー
20年間で500件以上の現場を指揮。「プロの技術を、素人でもできる形に翻訳して伝える」をモットーに、DIY初心者が陥るミスを未然に防ぐ情報を発信中。
「洗面所の壁が汚れてきたから、自分でペンキを塗って綺麗にしたい」
そう思ってホームセンターに行ったものの、「石膏ボード」と「ケイカル板」の違いがわからず、資材売り場で立ち尽くしてしまった経験はありませんか?
あるいは、ネットで調べても「シーラー処理が必要」「吸い込みが激しい」といった専門用語ばかりで、「結局、どうすれば失敗しないの?」と頭を抱えているかもしれません。
その不安、現場でも本当によく聞きます。
実は、ケイカル板の扱いはプロの新人でも失敗することがあるほど、少しコツがいる作業なのです。
でも安心してください。
この記事では、一級建築施工管理技士の私が、「画鋲1本での見分け方」から、「絶対に失敗しない塗装・施工手順」まで、プロの現場の知恵を包み隠さず伝授します。
これを読めば、吸い込みムラもビス割れも怖くありません。
さあ、一緒に自宅のリフォームを成功させましょう。
石膏ボードとは全然違う!「ケイカル板」の正体と見分け方
まず一番最初にやるべきことは、あなたが補修しようとしているその壁が、本当に「ケイカル板」なのかどうかを見極めることです。
ケイカル板(ケイ酸カルシウム板)と石膏ボードは、見た目が白っぽくて似ていますが、その性質は全くの別物です。
ここを間違えると、後の工程がすべて無駄になります。
では、どうやって見分けるか?
専門的な知識は不要です。
「画鋲」を1本用意してください。
画鋲を壁に刺してみよう
見分け方は非常にシンプルです。
壁の目立たない場所に、画鋲をグッと刺してみてください。
- 画鋲がサクッと刺さる → 「石膏ボード」
- 画鋲が硬くて刺さらない(または先が曲がる) → 「ケイカル板」
これだけです。
石膏ボードは中身が石膏(チョークのようなもの)と紙でできているため柔らかいですが、ケイカル板はセメント質で非常に硬い素材だからです。

なぜ水回りにケイカル板が使われるのか?
ケイカル板と石膏ボードは、耐水性において決定的な違いがあります。
石膏ボードは紙を使っているため水に弱く、濡れるとボロボロになります。
一方、ケイカル板は無機質でできているため、水に濡れても腐りません。
だからこそ、洗面所やトイレ、雨のかかる軒天(のきてん)には必ずケイカル板が使われているのです。
【塗装編】吸い込みムラを防ぐ「シーラー2度塗り」の鉄則
「よし、ケイカル板だとわかった。じゃあペンキを塗ろう!」
ちょっと待ってください。ここでいきなり上塗り塗料を塗ってしまうのが、DIYで最も多い失敗パターンです。
ケイカル板には、「スポンジのように水分を猛烈に吸い込む」という厄介な特性があります。
下地処理なしでペンキを塗ると、塗料の水分だけが板に吸い取られ、顔料が粉のように表面に残ってしまいます。
その結果、色ムラになったり、乾いたそばからボロボロと剥がれたりするのです。
これを防ぐための必須アイテムが、「カチオンシーラー」です。
なぜ「カチオン」なのか?
シーラー(下塗り材)にはいろいろな種類がありますが、ケイカル板には必ず「カチオン型」のシーラーを選んでください。
カチオン(プラスイオン)の電気的な力で、マイナスイオンを帯びたケイカル板に強力に密着するからです。
普通のヤニ止めシーラーなどでは、密着力が足りずに剥がれることがあります。
プロ直伝!「吸わせる」→「膜を作る」の2度塗りテクニック
カチオンシーラーを用意したら、以下の手順で塗ってください。
これがプロの鉄則です。
- 1回目(浸透): たっぷりと塗って、板にシーラーを吸わせます。「濡れ色」になればOKです。
- 乾燥: しっかり乾かします。
- 2回目(造膜): もう一度シーラーを塗ります。今度は吸い込まれず、表面にツヤっとした膜ができるはずです。
この「膜」ができて初めて、上塗りのペンキが綺麗に塗れる状態になります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: シーラーは「もったいない」と思わず、必ず2回塗ってください。
なぜなら、この点は多くの人が見落としがちで、「1回塗れば十分だろう」と高を括って失敗するケースが後を絶たないからです。1回目は板の内部を固めるため、2回目は表面を整えるため。役割が違うのです。このひと手間が、数年後の耐久性に雲泥の差を生みます。
【施工編】「バキッ」と割らないためのビス選びと下穴処理
塗装ではなく、新しいケイカル板を張る場合や、浮いてきた板をビスで留め直す場合にも注意が必要です。
先ほどお伝えした通り、ケイカル板は非常に硬い素材です。
しかし、硬いということは「粘りがなく、割れやすい」ということでもあります。
ここで、一般的な木工用ビスや、石膏ボード用の「ラッパビス(コーススレッド)」を使ってはいけません。
無理にねじ込むと、ビスの頭が沈む瞬間に「バキッ」と板が割れてしまいます。
割れを防ぐ「フレキビス」の秘密
ケイカル板には、必ず「フレキビス(軽天ビス)」という専用のビスを使ってください。
📊 比較表
なぜ普通のビスじゃダメ?ラッパビスとフレキビスの違い
| ビスの種類 | 頭の形状 | 特徴 | ケイカル板への適性 |
|---|---|---|---|
| ラッパビス (コーススレッド) | ラッパ型 (つるっとしている) | 木材や石膏ボードを押し広げながら沈む。 | × 不向き 押し広げる力で硬いケイカル板を割ってしまう。 |
| フレキビス (軽天ビス) | 皿型 + リブ加工 (裏にギザギザがある) | ギザギザが刃となり、板を削りながら沈む。 | ◎ 最適 板に負担をかけずに頭まで綺麗に沈む。 |
ケイカル板とフレキビスはセットで使うもの、と覚えておいてください。
ホームセンターのビス売り場に行けば、「フレキ」と書かれた箱が必ずあります。
また、板の端っこ(縁から2cm以内)にビスを打つ場合は、フレキビスであっても割れるリスクがあります。
面倒でも、ドリルで「下穴」を開けてからビスを打つのが、失敗しないコツです。
【重要】2004年以前の家は注意!アスベストのリスクと対策
最後に、DIYを行う上で絶対に知っておかなければならない「安全性」の話をします。
古い建材には、健康被害を引き起こすアスベスト(石綿)が含まれている可能性があります。
特にケイカル板(第1種)は、過去にアスベストを含んで製造されていた期間が長く、注意が必要です。
運命の分かれ道は「2004年」
国土交通省などのデータによれば、アスベストを含むケイカル板(第1種)は、2004年(平成16年)頃まで製造されていました。
もし、あなたのご自宅が2004年以前に建てられたもので、当時のケイカル板がそのまま残っている場合、アスベストが含まれている可能性があります。
- やってはいけないこと: ノコギリで切断する、ヤスリで削る、バールで無理やり破壊する。これらは粉塵が舞い散るため厳禁です。
- 推奨される対応: 塗装によるメンテナンス(封じ込め)であれば、粉塵が出ないため比較的安全です。張り替えや解体が必要な場合は、無理に自分でやろうとせず、専門業者に調査を依頼してください。
家族の健康を守るためにも、この年代の確認だけは怠らないようにしましょう。
正しい知識があれば、ケイカル板はDIYの強い味方になる
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
最初は「難しそう」と感じていたケイカル板も、その正体と扱い方がわかれば、もう怖いものではありません。
- 画鋲で刺さらなければケイカル板。
- 塗装するならカチオンシーラーを2回塗る。
- 留めるならフレキビスを使う。
この3つの鉄則さえ守れば、プロ顔負けの仕上がりを実現できます。
水にも火にも強いケイカル板は、正しく施工すれば家を長く守ってくれる頼もしい建材です。
まずは画鋲を片手に、洗面所や軒天の壁をチェックすることから始めてみませんか?
あなたのDIYが成功することを、心から応援しています!
この記事の注意点について
アスベストの含有調査や大規模な改修工事については、必ず専門の調査機関または建築士にご相談ください。
参考文献リスト
- 石綿(アスベスト)含有建材データベース – 国土交通省・経済産業省
- 建築用塗料の基礎知識 – 日本ペイント株式会社
- ハイラック(ケイ酸カルシウム板)製品情報 – 株式会社エーアンドエーマテリアル