テレビやネットのニュースで「中学生の半数が教科書を読めていない」という話題を目にして、ドキッとしませんでしたか?
「アレクサンドラ構文」という聞き慣れない言葉とともに、衝撃的なデータが流れてくる。
「えっ、うちの子は大丈夫かしら?」「もしかして、私自身も正しく読めていないんじゃ…」
そんな不安を感じて検索されたあなたへ。まずは深呼吸してください。
話題の「アレクサンドラ構文」は、決して意地悪なひっかけクイズではありません。
私たちが無意識に行っている「読み方の癖」を映し出す鏡のようなものです。
結論から言います。読解力は「才能」や「地頭」の問題ではありません。
「文の構造」を見る技術があるかどうか、ただそれだけです。
この記事では、なぜ多くの人がこの問題で間違えてしまうのか、そのメカニズムを「骨組み」と「飾り」という視点で分かりやすく図解します。
そして、今日から親子でゲーム感覚でできる、具体的なトレーニング方法までお伝えします。
[著者情報]
この記事を書いた人:伊藤 恵(国語専門プロ家庭教師)
読解力開発トレーナー。中学受験国語や大人のためのロジカルリーディングを指導。「読解力は才能ではなく技術」をモットーに、偏差値40台からの難関校合格や、親子の読解力向上を多数サポート。
まずは挑戦! これが話題の「アレクサンドラ構文」です
百聞は一見にしかず。
まずは、その話題の問題に実際に挑戦してみましょう。
これは、国立情報学研究所の新井紀子氏らが開発した「リーディングスキルテスト(RST)」に含まれる一問です。
準備はいいですか? 以下の文を読んで、問いに答えてください。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、男性の名Alexanderの愛称でもある。
【問い】Alexandraは男性の名であるか、女性の名であるか。A. 男性の名
B. 女性の名
C. 男性にも女性にも使われる名
D. どちらでもない
さあ、答えはどれだと思いますか?
直感で選んでみてください。
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(スクロールして正解を確認)
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【正解】
B. 女性の名
いかがでしたか?
「簡単じゃない!」と思われた方も、「えっ、Cじゃないの?」と戸惑った方もいるかもしれません。
実はこの問題、公立中学生の正答率はわずか38%。
進学校の高校生でも65%程度しか正解できないというデータがあります。
出典: 「アレクサンドラ構文」とは? – 教育のための科学研究所
もし間違えてしまっても、落ち込む必要はありません。
大人の私たちでも、油断すると間違えてしまう「落とし穴」が、この文には隠されているのです。
なぜ間違える? AIと同じ「キーワード拾い読み」の罠
なぜ、これほど多くの人が間違えてしまうのでしょうか?
特に多い誤答が「C. 男性にも女性にも使われる名」を選んでしまうパターンです。
この原因は、私たちが文章を読むときに、無意識に「キーワード拾い読み」をしてしまっていることにあります。
問題文をもう一度見てみましょう。
Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが…
誤答する人の脳内では、文頭の「Alexは男性にも女性にも使われる」という情報と、後ろに出てくる「Alexandra」という単語が、文脈を無視して勝手に結びついてしまっています。
「Alexandra」という単語を見た瞬間に、直前の「男性にも女性にも」という強い印象のフレーズに引きずられてしまうのです。
実はこれ、AI(人工知能)が文章を読み間違えるパターンと非常によく似ています。
AIは単語の出現頻度や並び順(統計確率)で意味を処理しようとしますが、人間のような「論理的な構造理解」は苦手です。
私たち人間も、急いで読んだり、なんとなく眺めたりしていると、AIと同じように「単語だけを拾って、勝手なストーリーを作ってしまう」のです。
これを「機能的非識字」と呼ぶこともあります。
しかし、私たちはAIではありません。文の構造を正しく解析する力、専門用語で言うところの「係り受け解析」の能力を使えば、絶対に間違えることはありません。
【図解】文の「骨組み」と「飾り」を見分ければ、誰でも読める
では、どうすれば正しく読めるのでしょうか?
ここで登場するのが、「係り受け解析」という技術です。
難しそうな言葉ですが、やることはシンプル。
文を「骨組み(主語・述語)」と「飾り(修飾語)」に仕分けるだけです。
読解において、「係り受け解析」の核心は、文の骨組みである「主語と述語」を見つけ出すことにあります。
一方で、「修飾語」は情報を詳しくする重要な要素ですが、時に文の構造を見えにくくする「ノイズ(飾り)」にもなり得ます。
今回のアレクサンドラ構文を、この視点で分解してみましょう。

いかがでしょうか?
「飾り」を取り払って「骨組み」だけを見ると、この文は以下のようになります。
- Alexは(主語)、愛称である(述語)。
そして、「女性の名Alexandraの」という部分は、「愛称」という言葉を詳しく説明するための「飾り(修飾語)」に過ぎません。
つまり、文の中で「Alexandra」は「女性の名」であると、はっきり限定して書かれているのです。
このように、「係り受け解析」を使って「骨組み」と「飾り」を意識的に分けることができれば、どんなに複雑な文章でも惑わされることはありません。
今日から親子でできる! 読解力を鍛える「3ステップ・トレーニング」
「理屈はわかったけど、どうすればその力が身につくの?」
そう思われたお母さん、お父さんへ。
ここからは、今日からご家庭で実践できる「3ステップ読解トレーニング」をご紹介します。
特別な教材は必要ありません。
教科書や新聞、ネットのニュースなど、手元にある文章で試してみてください。
ステップ1:文節に区切って声に出す
まずは、文を意味のまとまり(文節)ごとに区切る練習です。
声に出して、文節の切れ目に「ネ」や「サ」を入れて読んでみましょう。
「Alexは(ネ) / 男性にも(ネ) / 女性にも(ネ) / 使われる(ネ) / 名前で(ネ)…」
これだけで、単語の羅列ではなく「意味のブロック」が見えてきます。
ステップ2:文の「尻尾(述語)」を見つける
日本語の文章で一番重要な情報は、必ず文の最後(尻尾)に来ます。
長い文に出会ったら、まずは最後まで目を走らせて、「どうした(述語)」を確認しましょう。
「…愛称でもある。」
これがこの文のゴール地点です。
ステップ3:「ペア(主語)」を探す
ゴール(述語)が見つかったら、「何が?」と問いかけて、そのペアになるスタート地点(主語)を探します。
「何が愛称なの?」 → 「Alexは」
これで「Alexは愛称である」という骨組みが完成しました。
あとは、その間の「飾り」をパズルのように当てはめていくだけです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: お子さんと一緒にやる時は、「主語探しゲーム」にするのがおすすめです。
なぜなら、子供は「勉強」と言われると身構えますが、「この文の犯人(主語)は誰だ?」とクイズ形式にすると、喜んで探してくれるからです。私も生徒たちにまずこれをやらせますが、最初は面倒くさがっていた子も、1週間ほどで「先生、文の骨が見えるようになった!」と劇的に変わります。この感覚をつかめば、国語の成績は必ず上がります。
Q&A:本をたくさん読めば読解力は上がりますか?
最後に、保護者の方から最もよく受ける質問にお答えします。
Q. うちの子、本はたくさん読むのに国語の点数が悪いんです。読書量を増やせば読解力は上がりますか?
A. 残念ながら、ただ読む量を増やすだけでは読解力は上がりません。
厳しい言い方になりますが、読み方(フォーム)が間違ったまま素振りを千回繰り返しても、野球がうまくならないのと同じです。
構造を無視して「キーワード拾い読み」をする癖がついたまま多読をすると、かえって「読み流し」の悪い癖を強化してしまう恐れすらあります。
大切なのは「量」より「質」です。
長い本をなんとなく読むよりも、短いニュース記事や教科書の1ページを、先ほどの3ステップで「精読(構造把握)」する練習をしてください。正しいフォームが身につけば、自然と速く、深く読めるようになります。
まとめ:読解力は一生モノの武器になる
「アレクサンドラ構文」は、私たちが普段いかに雰囲気で文章を読んでいるかを教えてくれました。
でも、怖がることはありません。「係り受け解析」という技術を使えば、文章の構造はクリアに見えてきます。
- 文を「骨組み」と「飾り」に分ける。
- 主語と述語のペアを見つける。
たったこれだけのことで、ニュースも、契約書も、子供の教科書も、驚くほど正確に理解できるようになります。
ぜひ今日のニュースや、お子さんの宿題で、さっそく「骨組み探し」を試してみてください。
親御さんが楽しんで構造を解き明かす姿を見せれば、お子さんも自然と真似をして、一生モノの「読む力」を手に入れるはずです。
[参考文献リスト]